メディアビジネスの中でも最も多く見られるのが「広告型」のビジネスです。多くのユーザーが見たいコンテンツを無料(や無料に近い形)で提供し、その中に広告を流すことで収益を上げるモデルです。古くはテレビ・ラジオなどがこのパターンに該当します。
広告ビジネスの決算を読む上で重要な2つの指標
広告ビジネスにおいては
売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)
の公式が成り立ちます。いかに多くのユーザーを集め、1ユーザーあたりの売上を最大化するか、という点がすべてです。つまり、事業の好不調を読み解く上で重要な指標は
- ユーザー数
- ARPU
の2つになります。ARPU(アープと読みます)は『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』の中でたびたび出てくるキーワードですので、ぜひ覚えておいてください。
広告媒体としての魅力は「アクティブユーザー数」で決まる
テレビを例にして考えてみましょう。
日本においては、(NHKを除く民放の)テレビ局が放映するテレビ番組は、無料で視聴することができます。ただ、テレビ局も営利企業ですので、番組の途中や間に流れるテレビコマーシャル(CM)を販売することで、番組制作費を捻出しています。
CM枠を販売して売上を立てているテレビ局にとって、一番重要な指標は「視聴率」です。「視聴率」とは言い換えれば「同時視聴者数」であり、広告ビジネスの公式における「ユーザー数」に相当します。視聴率が高い番組のCM枠ほど、広告主にとっては魅力的な広告商品になるというわけです。
つまり、広告ビジネスでは、実際にコンテンツを能動的に閲覧している「アクティブユーザー数」が重要になります。
皆さんが広告出稿をする側だとして、アクティブユーザー数が少ないメディアに広告を出稿しようとは思わないでしょう。決算を見る際は、まずこの点に注目してみてください。
ちなみに、決算資料においては、各社それぞれメディアの特性にあわせてアクティブユーザー数を使い分けて記載する場合があります。
例えば、Facebookのように毎日利用することが想定されるメディアの場合は、1日あたりのアクティブユーザー数(DAU=Daily Active Users)を開示していますし、他にも1週間あたりのアクティブユーザー数を示すWAU(Weekly Active Users)や、1カ月あたりのアクティブユーザー数を示すMAU(Monthly Active Users)で決算開示をしている企業もあります。
広告配信の最適化で「ユーザーあたりの広告売上」を上げる
テレビの場合は、視聴者を特定するのが難しいため、テクノロジーによってARPUを上げることが困難です。他のメディアでは不可能なほど多くのユーザーにリーチできるという魅力がありますが、例えば女性用化粧品のCMを男性の高齢者に対しても配信してしまっているわけです。広告ビジネスの観点から考えれ ば、これはとても非効率な広告商品とも言えます。
一方、インターネットメディアは、リーチできるユーザー数はテレビほど多くない場合がほとんどですが、閲覧ユーザーやコンテキスト(状況や行動文脈)に応じて、きめ細やかな広告配信ができます。
そして、インターネットメディアにおける広告配信のテクノロジーは、近年進化を続けています。このテクノロジー戦争を制するか否かで、ARPUに何十倍の差がつくことも珍しくありません。従って、決算を読み解く際は、ARPUまで因数分解して読み解くことが重要になります。
参考までに、ARPUとはAverage Revenue Per Userの略ですが、上述のアクティブユーザー数の定義によって、
- ARPMAU=Average Revenue Per Monthly Active User
- ARPDAU=Average Revenue Per Daily Active User
などと記載されることもあります。
『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』の4章「広告ビジネスの決算」では、まず広告ビジネスの具体像を理解するために、異なるメディアにおける広告ビジネスを俯瞰するところから始めます。各メディアの「アクティブユーザー数」と「ARPU」の全体像がつかめるでしょう。
次に、インターネットメディアの中でもスマートフォン対応に成功し、着実にARPUを伸ばしているFacebookとヤフーの決算を取り上げます。最後に、スマートフォンの登場と通信回線の高速化によって、2006年頃に社会問題にまで発展した「テレビとインターネットの融合」が今まさに起こりつつある、という話を広告ビジネスの観点から解説します。
テレビvsネットのユーザー数・ARPU比較
一言で「広告ビジネス」といっても、出稿先となるメディアは数多くあります。古くはテレビにはじまり、最近はポータルサイトやSNSといったインターネット媒体が伸びています。
SNSを「メディア」と一緒にしてしまうの? と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ビジネスとしてはテレビやポータルサイトなどと同じ広告モデルであり、
売上=ユーザー数×ユーザーあたりの売上(ARPU)
の公式で比較できます。ここでは、広告ビジネスの基本を知るために、テレビとインターネットメディアにおける1ユーザーあたりの広告売上を比較してみましょう。
比較の背景として、インターネットメディアで動画や動画広告が当たり前のように配信される時代になってきたことが挙げられます。2017年は、インターネットの世界で「動画元年」と呼ばれるような年になるでしょう。
これだけ動画が当たり前になってくると、当然、広告の面でもテレビとの比較論が出てくるだろうと考え、先に分析をしてみました。
現時点で、インターネットメディアのユーザーあたりの広告売上は、テレビのそれと比較してどの程度の水準に達しているのでしょう? 比較材料を整理するために、まずはテレビ局の決算から放送売上の内訳を見ていきます。