秒殺か、死闘か。男は言葉のリングで、世界を倒すべく闘い続けた

2016年、『QJKJQ』で江戸川乱歩賞を受賞した佐藤究さんが、受賞第1作として『Ank : a mirroring ape』を上梓しました。もともとは純文学作家としてデビューを果たしていた佐藤さんが、エンタテイメント作家に転身して、挑んだものは何だったのか。第2回は、秒殺か死闘か、フィクションという名の社会貢献、世界レベルのエンタテインメント、についてです。

 純文学、パニック、ミステリー、人類史の起源に迫る知的な議論……「読む楽しさ」を、これでもかと詰め込んであるエンタテインメント
その大作を創り上げるための「決死の闘い」について著者の佐藤究さんに訊いた。

「秒殺、もしくは死闘を繰り広げたかった」—なぜ、いまこれを書いたか

 2016年に『QJKJQ』で江戸川乱歩賞をいただいて、いちおうチャンピオンの座に就かせていただいたんです。

QJKJQ
QJKJQ

 乱歩賞受賞者は、1年以内に次作を出すのが通例になっています。賞は毎年あるから、次のチャンピオンが出るまでに勝負するわけです。だから、執筆期間はたった1年。というか、書く前にあれこれ調べたり、書いたあとは校正なんかの時間もあるから、純粋に書いていられる期間なんて、数ヶ月です。

 チャンピオンというのは、ラッキーによって生まれることもあり得ます。ですから、業界やファンがその選手の真の価値を判断するのは、初防衛戦です。そこでファンをつけるには、相手を秒殺する、もしくは死闘を繰り広げればいい。一番ダメなのは、ダラダラした試合で判定にまでもつれること。

 ファン心理として、秒殺か死闘が見たいというのは、小説でも同じだろうとおもいます。格闘家ならだれでも秒殺を夢見ますけど、そううまくはいかない。だったら最初から死闘になることを想定しておくのがいい。

 モハメド・アリはジョージ・フォアマンと対戦するとき、そりゃ秒殺したかっただろうけど、当時のフォアマンは敵なしだから、自分が何度となく殴られることをあらかじめ設定していた。死闘を選んだわけです。
※ キンシャサの奇跡と呼ばれる、1974年のプロボクシングWBA・WBC世界統一ヘビー級タイトルマッチ。ファイトマネーの総額は1000万ドルだった。

 まったく器用じゃない僕も、防衛戦に臨むにあたっては、死闘を選ぶしかなかった。ジョー・フレイジャーとモハメド・アリの試合のポスターを部屋に貼って、僕も1年間、死闘を続けました。やっていて気づいたのは、物書きってだれもタオルを投げ入れてくれないんですよね。まあ、やるしかないと覚悟を決めて書き続けました。

 ふつうなら、「いつかは渾身の大作を書こう……」と、様子見をしたりするんでしょう。でも、僕のような立場じゃ、次があるかどうかなんてわからない。やらなくては。それで、引退試合に臨む覚悟でやりましたね。

 ちなみに江戸川乱歩賞は賞金が出ます。文学賞としては破格の、1千万円。これもすべて、執筆のために注ぎ込むつもりで暮らしました。

 それが礼儀かなと思って。書いているだけだと、資料代なんかを含めてもそれほど使えないので、舞台になる京都を取材したりもしました。

 しかし、小説家は体に悪いですよ。日々ろくに寝ないでアドレナリンを出しまくる生活を続けていると、体調が間違いなく狂う。いまも心臓の調子がちょっとおかしいと医者に言われてます。

 でも、プロレスラーの鈴木みのるが以前に言ってました。プロはできませんと言うのは、なしだと。だから僕も覚悟を決めた。

「フィクションを書けば社会に貢献できるとおもった」—なぜ文学か

 格闘技が小さいころから好きでした。じゃあ文学はといえば、もう少しあとです。

 親父がペンキ屋で、僕も中学生のころから現場に出させてもらったりしてました。すると、中高生が崇めていた暴走族や不良の先輩たちが、すっかり腹の出た親父になって、嫁さん息子のために一生懸命働いている姿を目の当たりにする。不良が不良のままでいられない事実を知ってしまったんです。

 そういう生き方でもいいけれど、自分は違う道を進もうとおもった。みんながやらないことを探して、まずは本を読まなければという気持ちになりました。

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人類史の驚異の旅へと誘う、世界レベルの超絶エンタテインメント!!

Ank: a mirroring ape

佐藤 究
講談社
2017-08-23

この連載について

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文学者の肖像

山内宏泰

文学とは、なんなのか。文学者たちは今をどうとらえ、いかに作品に結実しているのか。言葉に向き合う若き作家たちの「顔が見える」インタビューシリーズです。

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コメント

sato_q_book ご興味ある方は。インタビュー続きです。 約3年前 replyretweetfavorite

corkagency ♣文学やアートなどが得意なライター、山内宏泰さん( @reading_photo )。 頻繁に記事を目にしますねえ。すごい! https://t.co/NWVZJfRcli https://t.co/RBcZ3u3lam https://t.co/w1A2tzMmpG 約3年前 replyretweetfavorite

reading_photo 【掲載中】表現も闘いだ!  と何でも格闘技にたとえて話してくださる佐藤究さん。小説同様、ご本人もエンターテイナー。『Ank : a mirroring ape』を1年弱で書くのはたしかに闘争に違いない。cakes「文學者の肖像」。 https://t.co/x6KQ2IhnvW 約3年前 replyretweetfavorite