ユウカと父の仲は、昔から良好だった。
母親が強い性格で、一家を引っ張っていくような存在だったのだけど、ユウカと父は、いつも母から文句を言われるという立場では一緒だった。
父には、箱庭作りという変わった趣味があった。没頭すると、半日でも1日中でも自分の部屋から出て来ないというのもザラで、母は「本当に、書斎なんて作るんじゃなかった」と父がそこに籠ると文句ばかり言っていた。父の箱庭作品は、10年前に都知事賞を受けたこともあるほど精巧な作りで、趣味仲間からも尊敬を集めているらしく、たまに海外からも作品の招待を受けるらしい。ユウカは小さい頃から、父の作品を見るのが好きだった。長い時間眺めていると、まるでその世界に入り込んだみたいな気持ちになる。山や川や街のミニチュアが目の前に並んでいて、ユウカはその小さな世界の住人になる。
箱庭の中で小さい人間になると、「お風呂入りなさい」とか「夕ご飯食べなさい」なんて言葉が耳に入らなくなる父の気持ちもよくわかった。
父のいない時間に書斎に入り込んで、ユウカは小さな世界へのトリップを楽しみにしていた。