久坂部 羊
聴診器を当てても病気の診断はできない?
病院や健康診断で聴診器を当てられた経験のある人はとても多いでしょう。しかしその診察、実はあまり意味はないのかも……? では一体、医者は聴診器で何を聞いているのでしょうか? まさか、聞いているふりをしないと「ヤブ医者」あつかいされてしまうから? 医療小説の奇才・久坂部羊が医学のウソ・ホントを語りつくす連載第7回!
聴診器で何が聞こえる?
医師は聴診器で何を聞いているのでしょう。
大きく分けて、「呼吸音」と「心音」です。呼吸音には、肺炎など痰が多いときに聞こえる「湿性ラ音(ガラガラ)」、気管支炎などで聞こえる「乾性ラ音(ヒューヒュー)」、喘息のときに聞こえる「喘鳴(ゼーゼー)」、そのほか、「捻髪音(チリチリ)」、「水すい泡ほう音(パチパチ)」などがあります。大学ではそう習いましたが、実際にはあまり役に立ちません。レントゲン写真やMRIなどのほうが、はるかに正確に診断できるからです。
私自身、いつも聴診器を当てながら、いったい何がわかるのだろうと自問します。わずかな異常を見つけて、病気の早期発見ができればいいですが、聴診器でそんなことはまずできません。喘息くらいはわかりますが、肺がんはぜったいにわかりませんし、喘息にしても、別に聴診器を使わなくても自覚症状で十分わかります。
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この連載について
久坂部 羊
ようこそ、ミステリアスな医療の世界へ――。本講座では、モーツァルト、レクター博士、手塚治虫、ドストエフスキー、芥川龍之介、ゴッホ、デビットボウイなど、文学や映画、芸術を切り口に人体の不思議を紐解いてゆきます。脳ミソを喰われても痛くない...もっと読む
著者プロフィール
1955年大阪府生まれ。医師、作家。大阪大学医学部卒業。二十代で文芸同人誌「VIKING」に参加。外務省の医務官として九年間海外で勤務した後、高齢者を対象とした在宅訪問診療に従事。2003年『廃用身』で小説家デビュー。以後、現代の医療に問題提起する刺激的な作品を次々に発表。14年『悪医』で第三回日本医療小説大賞を受賞。主な小説に、『破裂』『無痛』『嗤う名医』『芥川症』『いつか、あなたも』『虚栄』『反社会品』『老乱』『テロリストの処方』『院長選挙』などがある。新書『大学病院のウラは墓場』『日本人の死に時』『医療幻想 思い込みが患者を殺す』『人間の死に方』など小説外の作品も手掛けている。