左から、海猫沢めろんさん、鳥飼茜さん、荻上チキさん B&Bにて
シェアハウス育児に沸き起こる世間の嫌悪感
荻上チキ(以下、荻上) ここまで育児の常識のぶつかり合いについて話してきましたけど、鳥飼さんの『地獄のガールフレンド』っていう作品も、共同生活の中でのシェア育児みたいな面もあるじゃないですか。
鳥飼茜(以下、鳥飼) そうですね。シェア育児がテーマな話ではないけど、シチュエーションとしてはそうです。
荻上 一つの家に、女の人が3人暮らすという設定ですよね。一人は離婚したてのシングルマザー。もう一人は以前ずっと既婚者と交際していたけど今は恋愛に距離があるという。
鳥飼 そうです。不倫はしていたけど、セカンドバージンと言われている真面目OL。あとはずっと恋愛しっぱなしで結婚はしていないモテガール。
荻上 とにかくめっちゃモテる。
鳥飼 だから正直、その女性3人と子どもが暮らすという時点で微妙に物議を醸すというか。シェアすること自体にアレルギーというのが。
大人たちが夜話し合ってるとき、子供はどうしてんの? とかかわいそうじゃない? みたいな反応はあって。その先に言いたいことがあっても、いつも子供はお母さんの横にいてあげるべき、みたいな。
海猫沢めろん(以下、海猫沢) 漫画でもそんなこと言われるんですか。
鳥飼 子どもをほったらかしてそうなシーンが続くだけでも嫌悪感というか。たぶん、躓く段階が早い。
海猫沢 そこは難しいですよね。嫌悪感と言われちゃうと理屈じゃないから。
この間ネットでもシェアハウスで育てるのが炎上してましたよね。
荻上 なんで炎上したの?
海猫沢 旧日本的な価値観からすると、やっぱおかしいみたいな。
鳥飼 でもさ、すごい昔って、近所の人と育てたりしたよね。
荻上 乳母さんがいたりとか、家の中でも働く女中さんがいたりとか。
海猫沢 たしか「事故があった時の責任は?」「自分たちだけで育児ができないなら子どもを作るなと思う」とか。なんか問題があった時に、誰が責任を取るんだ的な意見を見かけましたね。
鳥飼 あー、親がそこにいないと。
海猫沢 俺、もともとシェアハウス住んでて、パートナーもそこにいた人なので、当然子どもが生まれてしばらく、そのシェアハウスに住んでいたんですよ。
鳥飼 そうなんですか!
海猫沢 しかもそのとき、すでに別のカップルが産んだ生後半年くらいの子がいたんです。だけど漫画で描いているようには、ならなかった。
鳥飼 どういうふうにならないんですか。
海猫沢 子どもがあまりに小さいと絶対なんかが起きる前提なんです。事故ったり。そういうことを考えはじめると、他人に預けるというのは無理でしたね。もし、例えばなんかで障害が残るようなことになったりしたりしたら、その人を責めないではいられないじゃないですか。
自分が預けた責任もあるし、無理でしたね。結局、ほとんど預けたりはしなかった。
鳥飼 あー。
荻上 お金で雇ったみたいな契約関係で割り切れないから、いざ何かあった時も賠償とかできなかったりとかはあるだろうけど。
海猫沢 結局、近ければ近いほど、友達関係とか考えたりして、なかなか難しかったですね。
いつの間にか内面化される規範
鳥飼 さっきから話してる世の中の規範とかって、おじさんだけが持ってるんではなくて、女の人にも内在しているんですよね。
海猫沢 ああ、そうですよね。
鳥飼 自分の家がどうやったかとか、親の振る舞いを見て育っているのかが一番影響でかい。いかに男女平等と言われても、親戚との間の大人の振る舞い方とかを見てるから。
荻上 正月とかね。
鳥飼 そう。親戚のおじさんが酔っ払って下品な冗談を言って、おばさんが苦笑いするみたいな、普通に受け入れて大きくなってきている私たちだから、そこで教育が云々の前に、女はこういう時に笑ってスルーするのがいいのであるみたいなことが、女の方も内面化しちゃってることってすごくある。
海猫沢 それは僕も田舎だからわかります。自分は田舎が嫌で都会に出てきたのに、いざ子供が生まれて教育していると、自分が田舎で育てられたときに、親の言っていることを言っているんですよ。それでハッて。
鳥飼 あ〜。
海猫沢 すごい薄っぺらい一般常識的なことを言っているんですね。
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