第206回 関数の作り方(後編)

関数が《対応そのもの》だとしても、それっていったいどうやって作るんだろう。「関数を手がかりに」シーズン第3章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。

ミルカさん:数学が好きな高校生。のクラスメート。長い黒髪の《饒舌才媛》。
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図書室にて

図書室でテトラちゃんは「関数」についておしゃべりをしている。 (第205回の続き)。

テトラ「あたしは、先ほど出てきた《対応そのもの》というのは、すごく関数の魂に迫っているように感じたんですが」

「魂」

テトラ「でも、そんな《対応そのもの》なんてあいまいなものは、どうやって数学で扱うことができるんでしょう。 扱っているんでしょうけれど、謎です」

「関数で、いちばんわかりやすいのは数式という姿だよね。《対応そのもの》を扱うのは難しいから」

ミルカ「難しくはない」

テトラ「ミルカさん!」

「ミルカさん……びっくりするよ」

ミルカ「テトラがいう《対応そのもの》としての関数を数学で扱うことは、 難しい話ではない。あいまいな話でもない。 一度わかってしまえば、ということだけれど」

テトラ「そうなんですか?」

「うーん、ピンと来ないなあ」

ミルカ「そう? 君が好きな話だと思うのだけれど」

「関数のような基本的なものを、何で表すんだろう」

ミルカ「もちろん、集合と論理だ」

テトラ「集合と……論理?」

ミルカ「テトラがいう《対応そのもの》とは何か」

ミルカさんテトラちゃんを指さす。

テトラ「対応というのは、そうですね……たとえば、$y = f(x)$で、$x$の値を一つ決めると、それに対応して$y$の値が一つ決まるということです」

ミルカ「ふむ。そのとき、$x$の値に$y$の値を対応付けているもの、それが関数$f$だと」

テトラ「は、はい。そういうことです。たとえば、関数$f$が、具体的に$2x + 1$だったら、 関数$f$は、$3$に対して$7$を対応付けています」

ミルカ「そのとき、$3$と$7$のペアが鍵になる。だから、《$3$に対して$7$を対応付ける》ことを、順序対(じゅんじょつい)を使って、 $$ (3,7) $$ と同一視しよう」

「ああ、なるほど。順序対を使えばいいのか!」

テトラ「ちょっと待ってください、先輩! そんなにすぐ、《なるほど》らないでください!」

「《なるほど》って動詞だったのか……」

テトラ「順序対……」

順序対

ミルカ「二つの集合$X,Y$があり、$X$の要素$x$と、$Y$の要素$y$を順に並べたものを、順序対$(x,y)$という」

テトラ「$(x,y)$というと点の座標のように見えます」

「平面上にある点の座標も、順序対と見なすことができるからだよね。$X$を実数全体の集合$\REAL$として、$Y$も実数全体の集合$\REAL$だとして、 $x$座標の値と$y$座標の値を並べた点$(x,y)$は、順序対と見なせる」

ミルカ「いずれにせよ、二つの要素を並べて順序対を作り、それを利用して新しい概念を定義する」

テトラ「順序対のこと……思い出してきました。《順序対で整数を作る》。《順序対で有理数を作る》。そして《順序対で複素数を作る》という話ですね(第153回第154回第155回参照)」

ミルカ「《数を作る》ときには、すでに作った数の順序対を使って、新しい数を作った。 それと同じように《関数を作る》ときにも、順序対が使える」

テトラ「ちょっと、ちょっとお待ちください。お話のスピードを、あまり上げないでください……こういうお話でしょうか」

  • あたしたちは、関数$f$のことを考えています。
  • 関数というのは《対応そのもの》なので、《対応そのもの》を数学的に扱いたいと思いました。
  • $y = f(x)$が成り立つとすると、関数$f$は$x$を$y$に対応付けします。
  • だから、順序対$(x,y)$を作れば、関数$f$を作ることになる……?
  • たとえば$f(x)$が$2x + 1$だったら、$3$を$7$に対応付けしています……
  • この場合は、順序対として$(3,7)$を作ればよい……?

ミルカ「大きな流れはその通り。ただし、$(3,7)$というのは$x = 3$のときの対応だけに注目している。 私たちが作りたいものは、 その関数$f$が作り出す《すべての対応》を集めたものになる」

「順序対の集合を考えることになるんだね!」

ミルカ「そういうこと」

テトラ「順序対の集合……」

ミルカ「関数$f$が$y = f(x)$という形で$x$を$y$に対応付けするとしよう。このとき$x$というのはどんな集合の要素だろうか」

テトラ「$x$は、関数$f$に与える数ですが……」

ミルカ「つまり$x$は、関数$f$の定義域の要素だ」

テトラ「あっ、そうですね。そうですそうです」

ミルカ「そして$y$は関数$f$の終域の要素だといえる」

テトラ「……はい」

ミルカ「私たちが考える順序対$(x,y)$は、関数の定義に登場する二つの集合、 定義域と終域を使って考えることができそうだ」

定義域と終域

テトラ「ちょ、ちょっと頭がごちゃごちゃしてきました……」

ミルカ「では、きちんと筋道を立てて考えてみよう」

集合の直積

ミルカ「まず最初に、集合の直積(ちょくせき)を定義する」

集合の直積

二つの集合$X$と$Y$を考える。

$x$を集合$X$の要素とする($x \in X$)。

$y$を集合$Y$の要素とする($y \in Y$)。

このとき、$x$と$y$の順序対$(x,y)$全体の集合を、 集合$X$と集合$Y$の直積と呼び、 $$ X \times Y $$ で書き表すことにする。

テトラ「直積を$X \times Y$と書き表すということは、《積》と関係があるんでしょうか。掛け算……?」

ミルカ「それは後から考えること」

テトラ「え?」

ミルカ「式の書き方や言い回しの前に、定義されている内容の方を考える。$X$の要素$x$と、$Y$の要素$y$があり、 それらを並べた順序対$(x,y)$全体の集合が直積。 テトラは、直積を理解した?」

テトラ「直積は……何となくわかります」

ミルカ「何となく?」

「《例示は理解の試金石》だよね、テトラちゃん」

テトラ「あっ、そうですね。例を作ってみます。二つの集合$X$と$Y$を考えます。たとえば、 $$ \begin{align*} X &= \SETL 1, 2, 3 \SETR \\ Y &= \SETL 123, 456 \SETR \\ \end{align*} $$ でもいいでしょうか。そうすると、直積$X \times Y$は、 $(1,123)$や$(2,456)$や……ぜんぶ書き上げますっ!」

$X = \SETL 1, 2, 3 \SETR$と$Y = \SETL 123, 456 \SETR$の直積 $$ X \times Y = \SETL \, (1, 123), (2, 123), (3, 123), (1, 456), (2, 456), (3, 456)\, \SETR $$

「正解!」

ミルカ「これは直積の正しい例」

テトラ「反省しました。直積の定義を見ているだけだと《何となくわかる》感じなんですが、 自分で具体例を作ってみると《くっきりとわかる》感じになります」

「《例示は理解の試金石》は本当に強力だよね」

ミルカ「では君は、直積の別の例を挙げる」

ミルカさんを指さす。

「そうだなあ……そうか、さっきの例がそのまま使えるよ。$X = \REAL$で$Y = \REAL$とする。そうすると、$X$と$Y$の直積$X \times Y$は、座標平面と見なせるね。 $(x,y)$で$x$が任意の実数、$y$が任意の実数ということだから」

ミルカ「だから、座標平面全体のことを$\REAL \times \REAL$と表したり、さらに$\REAL^2$と表したりすることもある。自然といえば自然な表記法」

直積$\REAL \times \REAL$は座標平面全体と見なせる

テトラ「なるほどです」

ミルカ「直積はこんなふうに書くこともできる」

$$ X \times Y = \SETL (x, y) \SETM x \in X \LAND y \in Y \SETR $$

「$X$の要素$x$と$Y$の要素$y$が作る、順序対$(x,y)$全体の集合……か」

ミルカ「テトラの具体例をよく見ると、テトラが気にしていた《積》という用語との関連も見えてくる」

テトラ「え?」

ミルカ「テトラの例をこんなふうに表記すればわかりやすい」

$X = \SETL 1, 2, 3 \SETR$と$Y = \SETL 123, 456 \SETR$の直積 $$ \begin{array}{rclcccc} X \times Y &=& \SETL \SETRDOT \\ & & & (1, 123),& (2, 123),& (3, 123), & \\ & & & (1, 456),& (2, 456),& (3, 456)\, & \\ & & \SETLDOT \SETR \\ \end{array} $$

テトラ「……なるほど! わかりました。要素数が積になりますね。あたしの作った例ですと、 集合$X = \SETL 1, 2, 3 \SETR$の要素数は$3$で、集合$Y = \SETL 123, 456 \SETR$の要素数は$2$で、 直積$X \times Y$の要素数は$6$です。そして、$3 \times 2 = 6$です!」

「集合$A$の要素数を$\ABS{A}$で表すことにすると、$$ \ABS{X} \times \ABS{Y} = \ABS{X \times Y} $$ となるよね。直積で$\times$を使う気持ちがわかる」

ミルカ「それがいえるのは、$X$と$Y$が有限集合の場合であることに注意」

「確かに」

ミルカ「さて、私たちは関数を作りたい。関数の定義は?」

「これだね」

関数の定義

二つの集合$X$と$Y$を考える。

集合$X$のどんな要素$x$に対しても、 集合$Y$の要素$y$がたった一つ定まる規則$f$があるとしよう。

このとき、$x$に$y$を対応付ける規則$f$のことを、集合$X$から$Y$への関数$f$と呼ぶ。

そして、関数$f$が$x$に対応付けている要素のことを、 $$ f(x) $$ と書く。

集合$X$のことを、関数$f$の定義域(ていぎいき)という。

集合$Y$のことを、関数$f$の終域(しゅういき)という。

※これは写像の定義。集合$Y$が数の集合のときを関数ということが多い。関数は写像の一種である。

※規則は数式で表されている必要はなく、対応が定まっていればよい。

ミルカ「ここには《定義域$X$》と《終域$Y$》という二つの集合が出てくる。さっき$y = f(x)$で順序対$(x,y)$を作ったのを思い出すと……」

テトラ「なるほどです! 定義域を集合$X$として、終域を集合$Y$として、その直積$X \times Y$を作るわけですね。 そうすればすべての順序対の集合を作ったことになりますから!」

「……」

ミルカ「……」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

chibio6 関数や集合や論理記号はいきなり出てくると戸惑うけど、定義から丁寧に説明されるとわかりやすい。高階関数とは、関数を扱う関数のこと(例:微分)なのか。 8日前 replyretweetfavorite

aramisakihime 今でこそ大学で学んだから《当たり前》に見えますが、高校時代の自分には難しい内容だったと思います。「難しいなぁ」と楽しんでいたでしょう。 9日前 replyretweetfavorite

kazuki_0014 |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート https://t.co/ArOQhGgJjC 10日前 replyretweetfavorite

xi_124C41 結城さんの「説明する力」に感服する。これは透徹した理解を必要とする力ワザだと思う。 https://t.co/MDHS1fFeaa 11日前 replyretweetfavorite