続-「自分とはなにか、人を好きになるとは?」
先生 よろしい。それでは、こんな場面を思い浮かべてみるんじゃ。そうじゃな……、東京シティのどこかに、腹が出てよく肥えて、体毛の濃い中年の男がおるとしよう。
ひろ えーと、言うなれば上野に像がある西郷どんみたいな人ですか?
先生 うむ。仮に「西郷どん」としておこうか。その西郷どんがある日、ひょんなことから桜子ちゃんと一緒に階段からゴロゴロゴロー!と転げ落ち、その結果お互いの心と体が入れ替わってしまったとする。
ひろ なんだか嫌な予感が……
先生 西郷どんの体には桜子ちゃんの心が入り、桜子ちゃんの体には西郷どんの心が入った。…………さて。この時、桜子ちゃんはどっちじゃ? その時におまえが「こっちが桜子ちゃんだ」と主張できるのは、どちらの方じゃ?
ひろ そ、そんなもの! 決まってるよ! さささ、桜子ちゃんの心が入った、さささ西郷どんこそがほほ本物の桜子ちゃんだよ……! だって桜子ちゃんの本質は桜子ちゃんの心なんだから……
先生 そうか。では仮に体が入れ替わったとしても、おまえは西郷どんの体を持つ桜子ちゃんの方を好きでおるのじゃな? どちらか一方とデズニーデートができるとしたら、「おいどんは薩摩の西郷でごわす!」と訴える桜子ちゃんではなく、「私は桜子よ!」と喋る西郷どんとデートをするということじゃな?
ひろ こ、酷なことを聞きますねあなたも……
先生 答えんか。おまえは西郷どんの体の方とデートをするのじゃな? 夜のツンデレラ城で接吻をするとしたら、「私は桜子よ!」と喋る西郷どんと接吻をするということでいいんじゃな? 西郷どんの唇におまえの唇を重ね合わせるということでいいんじゃな!?
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