面白くて爽やかな『芝浜』
志ん朝の『芝浜』は直弟子の古今亭志ん輔が継承しているほか、春風亭一朝も「志ん朝の型」で演っている。
2012年に21人抜きの抜擢で真打に昇進した春風亭一之輔は、一朝の弟子。彼も師匠ゆずりの『芝浜』を演じている。
人情噺があまり好きではないという一之輔が『芝浜』をネタ下ろししたのは、2013年の 暮れ。「『芝浜』は市井にあったちょっといい話くらいでちょうどいい」という一之輔には、芝の浜の描写がない志ん朝の型がよく似合う。
「あっさり演りたいので、ほとんど師匠に教わったとおりです」と一之輔自身は言うが、随所に一之輔独自の台詞回しのセンスが活き、メリハリも効いていて、ほかの誰とも違う「面白くて爽やかな『芝浜』」だ。
志ん朝の『芝浜』の名場面、「今朝、俺は起きて」「湯へ行ったんだろ」と女房に言いくるめられるところで一之輔は「そうだよ、俺は起きて湯へ行ったよ、友達連れてきて飲んで寝たんだよ、で、今起きたんだよ……いつ(芝の浜に)行ったんだよ!」と自分で自分を追いつめてしまう。これがいかにも一之輔らしい。
『鼠穴』『富久』『文七元結』といった演目でも、年々「一之輔独自の台詞回し」が増えて作品に深みが増していることを考えると、10年先、20年先の一之輔の『芝浜』が楽しみだ。
爆笑を誘う『芝浜』
桃月庵白酒の『芝浜』も「志ん朝の型」。
師匠の五街道雲助が志ん生の孫弟子だから古今亭の型なのは当然とも言えるが(もっとも雲助の『芝浜』は古今亭の型ではなく、三木助系をベースにしている)、一之輔以上に「人情噺は嫌い、『芝浜』なんて演りたくない」と公言していた白酒だけに、枠組みは志ん朝ゆずりでも、中身はまったく違う。
白酒の『芝浜』は「押しが強い女房の尻に敷かれる亭主」の物語。
あっさりしているだけでなく、頻繁に笑いが起こる。『幾代餅』や『井戸の茶碗』でも笑わせる白酒らしいが、さすがに『芝浜』で頻繁に笑わせる演出は衝撃的だ。