藤田貴大
スープを流し込んでも。
ー歯止めがきかなくなったぼくー
【第18回】 もはや、「ぼく」を止められる人はいない。女子を知りたい気持ちが高じて、女子観察の次に始めた行為とは? 性交にはもう意味がない、という心境に至るまでの誰も想像しえない演劇作家の日常・・・。
最近、料理をしている。去年、ふとした拍子に楽しくなったのだ。それまでひとつもしたことがなかった。ごはんも炊いたことがなかったし、野菜を剝いたり、切ったりもしたことがなかった。それがいきなり、楽しくなったのだ。なんでだろう、なんでかわからないけれど。熱中すると止まらなくなるタイプだから、最近はずっと包丁を握っている気がする。
特にスープをつくるのが楽しいから、指先は常に玉ねぎの香り。オニオンスープを毎日。稽古場でもガスコンロを持ち込んで。毎日、こつこつ。玉ねぎを飴色になるまで、弱火で2時間以上。炒める。役者さんたちがウォーミングアップしている最中に、炒めている。ぼくの周りの役者さんたちは匂いに敏感だから、嫌な顔をする。そんな顔もいい。嫌味を言われる。嫌味もぜんぶ、なにもかも鍋のなかにぶち込んで。炒めて、煮込む。おまけに花粉の季節だから、なおさらだ。
その鼻水の原因は? 涙の理由は? 玉ねぎかい? 花粉かい?
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。