僕:数学が好きな高校生。
テトラちゃん:僕の後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
図書室にて
僕「そういえば、いつだったかユーリにこんなクイズを出したよ。言葉遣いは少し違うけど(第202回参照)」
$x$の多項式で作られた関数$f$で、$x = 0,1,2,3$に対してそれぞれ以下の値を取るものを見つけよう。 $$ \begin{array}{|c|cccc|} \hline x & 0 & 1 & 2 & 3 \\ \hline f(x) & 123 & 58 & 3028 & 7 \\ \hline \end{array} $$
テトラ「いつも思うんですけれど、ユーリちゃんってすごいですよね。どんな問題でも立ち向かっていくんですから」
僕「そうだね。『めんどいめんどい!』って言ってばかりいるけど、けっこうよく考えるよね。このクイズは、確かユーリのほうから言ってきたんだよ。 この表のような規則は、数式で書けるのかって」
テトラ「そうなんですね……ところでこのクイズは、こういう意味ですよね。$x = 0$のときは$123$になり、 $x = 1$のときは$58$になり、$x = 2$のときは$3028$になり、 $x = 3$のときは$7$になるような関数$f$を見つけ出しなさいっ……!」
僕「そういうこと。だから、こんなふうに書いてもいい」
$$ \begin{align*} f(0) &= 123 \\ f(1) &= 58 \\ f(2) &= 3028 \\ f(3) &= 7 \\ \end{align*} $$テトラ「はい、わかります。でも、こういう問題はどういうパターンで解いたらいいんでしょうか。 想像も付きませんが……」
僕「パターン?」
テトラ「パターンといいますか、解法といいますか、問題を解くコツのようなものです」
僕「この問題ならではの『パターンにあてはめる』という発想とは違うけど、考え方はいろいろあるよね。 僕たちがよく使うのは、もっとずっと一般的なパターンだけど」
テトラ「といいますと?」
僕「《ポリアの問いかけ》にあったかどうか忘れたけど、たとえば《小さな数で考えよう》なんていうのは考える糸口になるよね」
テトラ「なるほど! $f(0),f(1),f(2),f(3)$という$4$個の数が与えられたんじゃなくて、$$ f(0) = 123 $$ という$1$個の数だけが与えられたとするのですね」
僕「ああ、うん、たとえばね」
テトラ「だとしたら、$$ f(x) = 123 $$ だけでいいですね。どんな実数$x$に対しても$123$という数になる関数」
僕「なるほど! それは定数関数ってことか」
テトラ「次に、$2$個の数が与えられたとします。つまり、$$ f(0) = 123, \quad f(1) = 58 $$ ですから、二つの式の両方を満たすということで、 $x = 0$のときは$123$になって、$x = 1$のときは$58$にする……わかりました。こうですね」
$$ f(x) = -65x + 123 $$僕「えっ!」
テトラ「えっ! あっ! 検算しますしますっ!……$$ \begin{align*} f(0) &= -65 \cdot 0 + 123 = 123 \\ f(1) &= -65 \cdot 1 + 123 = 123 - 65 = 58 \\ \end{align*} $$ ……合ってます!」
僕「いや、検算してなくてびっくりしたわけじゃなくて、いきなり$f(x) = -65x + 123$が出てきたことに驚いたんだよ」
テトラ「えっと、グラフで考えました。$(0,123)$と$(1,58)$という二点を通る直線を想像すると、 $y$切片が$123$で、右下がりですよね。どのくらい下がるかというと、 $123$から$58$まで下がるんですから、$123-58=65$で、$65$下がります。 ですから直線の傾きは$-65$です」
僕「ああ、なるほど。確かにそうだね」
テトラ「まちがった解き方でした?」
僕「いやいや、ぜんぜんそんなことないよ。《グラフで考える》のもいいことだし、 $(0,123)$と$(1,58)$の二点を通るって考えたのもすごい。 僕はもともと、違うルートで考えていたから、 テトラちゃんの発想法にびっくりしただけだよ」
テトラ「先輩はどんなふうに考えたんですか?」
僕「僕だったら、こんな順番で関数$f$を考えるかな。まず《$x = 0$のとき$x - 0 = 0$になる》し、 《$x = 1$のとき$x - 1 = 0$になる》と思った」
テトラ「それはそうですね」
僕「それから、《$x = 0$または$x = 1$のとき、$(x - 0)(x - 1) = 0$になる》」
テトラ「はい……」
僕「さらに、《$x = 0$または$x = 1$または$x = 2$のとき、 $(x - 0)(x - 1)(x - 2) = 0$になる》」
テトラ「はあ……」
僕「$(x - 0)(x - 1)(x - 2)$は、$x = 0,1,2$のどれでも$0$になる。でも、$x = 3$にしたときは、 $$ (x - 0)(x - 1)(x - 2) = (3 - 0)(3 - 1)(3 - 2) = 6 $$ になる。ということは、 $$ \frac{(x - 0)(x - 1)(x - 2)}{6} $$ という式は……
- $x = 0$のとき、$0$になる。
- $x = 1$のとき、$0$になる。
- $x = 2$のとき、$0$になる。
- $x = 3$のとき、$1$になる。
テトラ「ははあ、わかってきました。先輩は、$x = 3$のときだけ$1$になって、 それ以外のときは$0$になる関数を作ったんですね?」
僕「そういうこと。そうすれば、$x = 3$のとき$7$になる関数も作れるよね」
テトラ「はい、そうですね。$7$倍すればいいんですから、$$ 7\times\frac{(x - 0)(x - 1)(x - 2)}{6} $$ という関数は、$x = 0,1,2$のときは$0$になるけれど、 $x = 3$のときは$7$になる関数ということですね?」
僕「その通り! この関数には$f_3(x)$という名前を付けておこう。さっきは分母の$6$を計算しちゃったけど、 計算しないほうがいいかな」
$$ f_3(x) = 7\times\frac{(x - 0)(x - 1)(x - 2)}{(3 - 0)(3 - 1)(3 - 2)} $$テトラ「$f_3$という名前にするんですか? それは、どうしてでしょう」
僕「$f_0,f_1,f_2$を同じようにして作りたいから」
$$ \begin{array}{rcrcl} f_0(x) &=& 123 &\times&\dfrac{ (x - 1)(x - 2)(x - 3)}{ (0 - 1)(0 - 2)(0 - 3)} \\[8pt] f_1(x) &=& 58 &\times&\dfrac{(x - 0) (x - 2)(x - 3)}{(1 - 0) (1 - 2)(1 - 3)} \\[8pt] f_2(x) &=& 3028 &\times&\dfrac{(x - 0)(x - 1) (x - 3)}{(2 - 0)(2 - 1) (2 - 3)} \\[8pt] f_3(x) &=& 7 &\times&\dfrac{(x - 0)(x - 1)(x - 2) }{(3 - 0)(3 - 1)(3 - 2) } \\[8pt] \end{array} $$テトラ「……なるほど! 規則的に作れるんですね」
僕「そうだね。$k = 0,1,2,3$とすると、関数$f_k(x)$というのは、$x = k$のときだけ$f(k)$の値に等しくなり、$x \neq k$のときは$0$という値になる関数」
$$ f_k(x) = \begin{cases} f(k) && (x = k) \\ 0 && (x \neq k) \\ \end{cases} $$テトラ「……」
僕「あとはこれをぜんぶ足し合わせればいいよね」
$$ f(x) = f_0(x) + f_1(x) + f_2(x) + f_3(x) $$テトラ「……」
僕「これで方針はできたから、あとは実際に計算してやればいいことになる」
テトラ「先輩……あたしは、わかりません」
僕「難しかった? そんなことないよね」
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この連載について
数学ガールの秘密ノート
数学青春物語「数学ガール」の中高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わいましょう。本シリーズはすでに14巻以上も書籍化されている大人気連載です。 (毎週金曜日更新)