楽しい個性派野菜
作ってみるとよくわかるが、スーパーで売られている野菜は、野菜の仲間の一部でしかない。
定番野菜はおいしいのだろうが、そこに個性派を加えると、畑も食卓も、ぐんと楽しくなる。珍しい野菜でも手軽に作ることができるのは、家庭菜園の楽しみのひとつだ。
私もいろいろな野菜を育ててきた。
たとえば、
結球しない芽キャベツの仲間プチヴェール。さっと茹でたり、オリーブオイルで焼いて塩コショウしただけで、とてもおいしい。我が畑に欠かせない冬野菜だ。
ファーベは、生で食べられるイタリアのソラマメ。日本のソラマメより細長く、豆の数が多い。
コリンキー。皮のまま生で食べられるカボチャの仲間。浅漬けやサラダに。彩もきれい。
オカノリ。刻むと粘りが出る、クセのない葉野菜。
黒キャベツ。葉をかきとって収穫できるキャベツの仲間。風味がよく、スープや煮込み料理にする。
珍しい作物を育てるのは、とても楽しい。
ただ、私はひとつだけ、とんでもないものを作ってしまったことがある。
春の終わり、長野県へドライブにでかけたとき、野菜直売所の園芸コーナーで、ある苗を見つけたのだ。
できればこたえたくない
一見してレモングラスかと思ったが、近づいて表示を見た私は、思わずふき出した。
そして1ポットだけ、こっそりカゴに入れたのだ。
「何これ?」
ナイショでレジまで行こうとしたが、夫に見つかった。ポットを手にとり、ラベルを見るなり、夫はそれを私につき返した。
「こんなもの育ててどうするの? 返してきな」
「いいじゃない。遊び、遊び。砂糖がつくれるかもしれないんだよ」
それはサトウキビの苗だった。
「サトウキビって、沖縄あたりでしか育たないんじゃないの?」
「私もそう思うけど、こうして長野に売ってるんだから、きっと育つよ」
私はその苗を強引に購入し、畑の隅に植えたのである。
季節が夏に向かうにつれ、サトウキビは育ち始めた。
トマトやキュウリが実をつけるのを尻目に、ただただ上へ伸び、葉を増やすだけだ。
農園のメンバーも、最初はススキか何かの草だと思っていたはずだ。それが、私の背に並んだころ、「どうもおかしい」と気になりだしたらしい。草にしては、巨大すぎる。
ご近所のM島さんが、ある日とうとう私に聞いた。
「これ、何?」
「あはははは」できればこたえたくない。
「なんなのこれ? もしかして、育ててるの?」
しかたない。こたえるか。
「サトウキビです」
すると夫がすかさず言った。
「ぼくは、やめろって言ったんですよ」
私は振り向いて、夫をにらみつけた。夫は、窮地に追いこまれた妻を見放すクセがある。
「サトウキビ!? 砂糖まで作るつもりなの?」
「いやいや。遊びで植えたら、こんなことになっちゃったんですよ」
M島さんは大笑いして、おそらく周囲のメンバーに言いふらしたのだと思う。
その後もサトウキビは異様なほど伸び続けたのに、ほかのだれも「これ何?」とは聞かなかった。
記念写真など撮ってみました。
てのひらにのるほどの苗が3~4か月でここまで。どんな細胞分裂をしているんでしょうか。
いくら食われても惜しくない
ついにサトウキビは、夫の背丈もこえた。
背の高い植物だということは知っていたが、どこまで伸びるつもりだ。不安になった私は、ネットで調べて愕然とした。
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