佐々木俊尚×影山知明トークイベント 対談編その1【第64回】

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの『そして、暮らしは共同体になる。』刊行記念に行われた、「シェアする暮らしのポータルサイト」代表の影山知明さんとのトークイベントをお送りいたします。本の内容についてはもちろん、さらなる未来に向けたお話に刺激をうけて、会場からも活発に質問が寄せられました。 イベントの後半にあたる対談・質疑応答を全3回でお届けします。前半の佐々木さんの講演も、ぜひあわせてご覧ください。

影山知明(以下、影山)  はじめまして、影山と申します。

少し自己紹介させていただいて、佐々木さんとのお話に入らせていただきます。

東京の中央線沿いの西国分寺という街で、集合住宅の大家(おおや)業をやっています。20〜70代と幅広い世代の方がお住まいで、子どもを育てている家族世帯の方も、一人暮らしの方も一緒に暮らしているシェアハウスです。また、共同体を集合住宅の中に閉じてしまうのはもったいない、ということで、街とつながるひとつの結節点として、カフェ「クルミドコーヒー」の経営を8年間やってきました。

「クルミドコーヒー」は、さきほど佐々木さんのお話の中で「(しきい)」とか「上がり(かまち)」という表現として出て来たように、「内側でもあり外側でもある」という中間領域があることで、人の出会いや関わりが始まっていくのではないか、という意識ではじめました。

佐々木さんが「街で暮らす」と表現されていましたが、私も仲間と「まち暮らし不動産」という会社をやっておりまして、住む前に街の様子を一緒に体験し、自分の居場所を見つけるサポートをする活動をしています。
今日のお話を「まさに!」という思いでお聞きしていたわけです。と同時に、本の内容にドンピシャなわりには、取材に来ていただけなかった……と自分の力不足も感じています。

さて、まず佐々木さんにお聞きしたいのが、これまでの僕の印象では「ITジャーナリスト」というイメージ、書籍で言えば『レイヤー化する世界』とか『21世紀の自由論』という本のように、ジャーナリストとしての佐々木さんのイメージがとても強かったものですから、今回「暮らし」や「共同体」というキーワードで書籍を書かれたことにまず驚きました。読者として嬉しくもあったのですが、どんな経緯があったのですか?

佐々木俊尚(以下、佐々木) 僕の基本的な仕事についてなのですが、ITジャーナリストというのは最近名乗らないようにしています。なぜかというと、誤解する人が多いんです。パソコンの新製品を紹介する仕事、みたいに思われがちで(笑)。

そういったことには興味が無くて、「テクノロジーの進化」と「グローバリゼーション」、さらに「近代の終わり」という3つの要素が、社会や世界をどのように変えていくのか、というのが最大の関心事で、それをテーマにこの10〜20年くらいずっと仕事をしてきました。

特に、テクノロジーの進化が広がってきている。昔はパソコンしか無かったけれど今はスマホが出てきて、SNSをみんながやるようになりました。10年前は、パソコンですることと言っても、ニュースを見るくらいしか無かったけれど、SNSによって人間関係のインフラになってきたわけです。そうやって領域が広がっていく。

人間社会の持っている領域全体に対して、テクノロジーやグローバリゼーションが覆う領域がどんどん広がっているわけです。この新しいパラダイムシフトが、人の生活や衣食住の変化にまでつながってきている、ということをここ数年非常に感じていて、だから2014年の夏に料理本を出したんです。とても驚かれましたが実は自然な流れで、こういうパラダイムシフトの中でどうやって生活を再構築するかを考えていたから、「健全な食生活」という方向へ行った。こうした流れの中で今回の本も考えていただくといいかな、と思います。

影山 発売されてから、反響はいかがですか?

佐々木 どうでしょうね。サクっと読めた、という声が多くて、そう言ってくれるのは嬉しいのですが……360ページ、16万字以上もある本を、サクッと読めるようにするためにどれだけ努力しているか、考えてみてほしいです(笑)。

影山 3回くらい全面的に書き直したとか。

佐々木 そうですね。取材を含めると2年半くらいかけていますし。文章も、よく「聞き書きですか?」と言われるんだけど、ちゃんと書いています。いかにきちんと、スルスル読めるようにするか、ということに細心の注意を払って、文体を何度も何度も直す、ということをやっています。

影山 そうして「暮らし」「共同体」というテーマの本が書き上がったわけですが、私自身がその領域に関わっているからこそ、あえて少し「いじわる」な質問といいますか、私が普段から突っ込まれるような質問を佐々木さんにもぶつけてみたいと思います。

まず、人が関わりあいながら共同体を作り、ひとつの生活基盤にしていく、という動きが起こりつつある、というお話でした。一方、そういう煩わしさが嫌で、人と関わりたくなくて都会に移住している方もいると思うのですが、そうした煩わしさについてはどう思われますか。


佐々木 僕は1960年代生まれなので良くわかるのですが、共同体の感覚というものは、かつてとても息苦しかったんです。『21世紀の自由論』にも書いた話ですが、例えば70年代ぐらいの日本映画やドラマのモチーフは、ほぼ「脱出」や「逃走」だった。息苦しい、もう嫌だ、逃げたい、というような。

これが90年代の終わりから2000年代になると一気に変わってきて、「つながりたいけどつながれない私たち」という方向に変わってくる。つまり、共同体から切り離されてしまうことに対する不安が強く世の中を覆うようになってきたのがこの15〜20年だったと思うんです。

共同体というのは、常に一種のジレンマなんですよ。つながりすぎると息苦しいし、無いと不安。だからもちろん、田舎の抑圧的な共同体から脱出して、東京でフリーターをやっている人も大勢いるでしょう。とはいえそれに満足しているかというと、みんな将来に不安を持っている。老後どうするとか、貯金が無いとか……そういうときやっぱり、救ってもらえる何かは必要なんですよね。かといって抑圧されるのは嫌なので、バランスをとるために「我々にとって共同体とは何か」を考えることが必要です。

『21世紀の自由論』の中で「ネットワーク共同体」という、抑圧の生まれない、テクノロジーをベースにした新しい共同体があり得るのではないかと書いたのですが、その部分が「抽象的でわかりにくい」と言われたことがあったので、ネットワーク共同体のあり方について、もっと現実の話に落とし込んで書いたのが今回の本なんです。

影山 「共同体」という言葉を使うときに、イメージの差が随分あるように思いました。さきほどおっしゃったように、かつての村(ムラ)のように、「不自由さとともにある共生関係」というか、関わったり助け合ったりできる安心感がある一方で、「関わらない自由」が担保されていなかったり、その共同体内部の常識に反することや、これまでの慣習に無かったことを新しく始めるとはじかれてしまうとか、そういう息苦しさや不自由さがあり、それが嫌で多くの人が都会に出てきて、自由を手に入れた。そして結果的に孤独になってしまった、ということだと思います。

じゃあ、この後どこへ向かうのかというと、もう一度不自由な共生に戻るのではきっとなくて、お互いが自由で、“それぞれ”が“それぞれ”であることにちゃんと敬意を払った上で、関わり合うことの可能性を模索していけるような、自由な共生関係が見えて来るといいな、と思っています。

佐々木 ただ、大事なのは、優秀な人だけの共同体であってはならないということです。この本にもすごく先端的な試みをしている人たちがたくさん出てくるのですが、「ここまでできる人はごくわずかだ」という反論が必ず来るんですよ。

でも、今のフェーズは「アントレプレナー(起業家)」フェーズで、いろんな失敗もあって死屍累々なんだけど、そこから次世代の新しいロールモデルが出てきて、誰もがそれを実践できるようになる時期が来る。つねにそういう繰り返しなんです、昔から。

重要な視点は、ひとりで生きて行ける人は現実にはほとんどいない、ということ。

コミュニケーションをとるのが下手だからひとりでいる、という人もいると思うのですが、本当にそれで幸せなのかというと、たぶんそうではない。やっぱり不安なんです。

かつての日本企業はかなり抑圧的だった。例えば僕の場合、新聞記者で特ダネ競争を一生懸命やっていた頃、すごい特ダネを取ったのに、デスクや社会部長が全然評価してくれず、扱いがとても小さい時があったんです。「なんでこんな扱いなんだ」と思っていると、信頼している先輩記者が来て、「佐々木、おまえの努力はな、見てる奴は見てるんだよ」と言ってくれた。こういう「見てる奴は見てるんだよ」という感覚って、かつての会社にあった優しさだったと思います。この感じ、今はないですよね。コミュ力がなければ生きて行けないような時代です。

でもたぶん、次の時代の共同体は、強者の集まりではなくて、コミュ力が低くてもちゃんと誰かが見ていてあげるという、お互いに無いものを補い合う感覚が出てくると思います。「ものすごく口下手だしぼんやりしているけど、あいつのことは俺がちゃんとわかってる」という仲間がいるような、安心感のある共同体になっていく必要がある。最終的には、こうした社会包摂がすごく大事だと思っています。

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ジャーナリスト・佐々木俊尚が示す、今とこれからを「ゆるゆる」と生きるための羅針盤

そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚
アノニマ・スタジオ
2016-11-30

この連載について

初回を読む
そして、暮らしは共同体になる。

佐々木俊尚

ジャーナリスト・佐々木俊尚さんの最新刊『そして、暮らしは共同体になる。』がcakesで連載スタート! ミニマリズム、シェア、健康食志向……今、確実に起こりつつある価値観の変化。この流れはどこへ向かうのでしょうか?深い洞察をゆるやかな口...もっと読む

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marekingu #スマートニュース 1年以上前 replyretweetfavorite

anonimastudio 佐々木俊尚さんと影山知明さんの「これからの暮らし」をテーマにした対談、本日から全3回で公開です! @cakes_PR: 【新着】そして、暮らしは共同体になる。佐々木俊尚×影山知明 対談 @sasakitoshinao @tkage https://t.co/baVedVNmVp 1年以上前 replyretweetfavorite