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「やりたいこと」って、「楽しいこと」とは限らない。辛くて、苦しくて、それでも向き合い続けたいと思える何かがあるなら、きっとその先には、大きな喜びが待っているんだと思うのです。
今回ご紹介するのは、「好きな人が同性だ。なのに『同性愛なんて間違ってる』と思えて仕方ない」とおっしゃる方からのご投稿です。
好きな女性と両思いになり、初めてのセックスを体験しました。しかし私は好きな女性を抱きながら、気持ちが悪くなって吐いてしまいました。
好きな女性とキスをした時、私は無意識に、これを「正しい」と感じました。それと同時に、「ついにやってしまった」という感情にも襲われ、もうとある地点を越えてしまえば、後戻りはできないのだ、と感じました。私の頭はひたすら混乱していました。
今考えれば、女性である私が女性である彼女の服を脱ぐ姿を熱っぽく眺める、という状況自体を私の脳が拒否していたのだと思います。なぜならそれは「間違っている」ことだからです。彼女のことを愛しているのに、体は動かないし、触られるのが怖く、彼女の体を拒否していました。私の中のホモフォビア[※]が濃い影を落としているのを発見した瞬間でした。※牧村注:ホモフォビア……同性愛嫌悪。他者だけでなく、自己に向けられる場合もある。
朝起きると、昨日のあの不恰好なセックスが、あの卑猥な音が、お酒の味がするキスが、洪水のように思い出されてそれは吐き気に変わり、彼女が寝ているベッドから出てトイレの中で一人泣きました。愛している彼女のプライベートな部分を触った手が汚いと思ってしまいました。どうすることもできませんでした。
「女と女のセックスなんて気持ち悪い」という潜在意識からくる性嫌悪によって、彼女を愛しているのに体と心がついてこないのが苦しいです。彼女からキスをされても、うれしいのに、心の底では「間違ってる」と感じてしまいます。どうしたら自分の中のホモフォビアを克服することができるでしょうか?
(一部編集して掲載させていただきました)
まず申し上げたいのが、「おめでとうございます」、ということです。
泣いて苦しんでいらっしゃる方に、こんなことを言うものではないかもしれない。だけど、私ね、本当にそう思うの。ご投稿者の方は、ご自身の中にある同性愛嫌悪から自由になるための一歩を、いちばんはじめの一歩を、すでに踏み出していらっしゃるから。(ご投稿者の方は”ホモフォビア”と表現していらっしゃるけど、他の読者の方々にも伝わりやすいよう本稿では”同性愛嫌悪”とさせていただきますね。)
さて、その一歩とは何か。彼女を愛するということです。もし本当に同性愛嫌悪にとらわれていると、愛するということができず、例えばこんなふうなことをしてしまうと思います。
・「自分は同性愛者なんかじゃない」とヤケクソみたいに異性との関係を重ねる。
・そもそも「自分キモい」との思いで頭がいっぱいで、彼女含む他者のことを考えられなくなる。
・素敵な彼女や世間の幸せそうな同性愛者をボコボコに否定することで、なんとか「同性愛という不正義と戦う自分は正しいのだ」と思い込もうとする。
要するに、自分のことだけで精一杯になっちゃうのね。他者を想うということができない。ましてや、泣いて吐いて苦しみながらも彼女の関係を続けよう、だなんて思えない。
別に自分のことで精一杯になるのは悪いことではないです。むしろ、第一ステップとして必要なこと。そしてご投稿者の方は、ちゃんとその第一ステップを踏み越えたのだと思うのです。だからこそ、次の課題に直面していらっしゃるのね。女を愛する女でありながら、「女と女のセックスなんて気持ち悪い」と感じてしまうことをどうするか、という課題に。
さて、どうしましょうね。
まず——このご投稿は数ヶ月前のものですから、もうなさったかもしれないけど——やっていただきたいのが、彼女さんとお話することです。「あなたの体が気持ち悪いんじゃない。でも、女と女のセックスというのがどうしても間違ったことだと思えてしまって、一人でトイレで泣いてしまった。愛しているからこそ乗り越えたい」というように。
だってね、隠していると、どんどん悪いことみたいに思えてきてしまうでしょう。彼女さんにだって、うっすら伝わっちゃうでしょうしね。「何か辛そうだけど、私に相談してもらえないなあ」って、寂しい思いでいらっしゃるかもしれない。だからまずは、話してみてほしいのです。好きな人だからこそ嫌われるのが怖くて、いつもニコニコ、陰で泣く——そういう対処法って、自分で思っている以上に相手に伝わるものなんですよ。恋人はサービス業じゃないので、接客スマイルしなくていい。無理して笑うより、安心して泣ける関係性をお互いに築くことで、晴れの日も雨の日も一緒に歩けるようになっていくのです。
特にご投稿者の方は、「潜在意識」「性嫌悪」「ホモフォビア」なんて言葉遣いをなさるところから見られるように、だいぶ、お一人でいろいろな読み物をお読みになって、じっと考えていらしたご様子だと思うのね。そういう概念ももちろん大事ですけど、それらはね、あなたという個人を知らない人が考えた概念です。他ならぬあなたを知っている人と、他ならぬあなたに向き合おうとしてくれている人と、話してみてください。それが難しいなら、あなた自身と話してみてください。もっと、あなたにオーダーメイドな物の見方が見つかるはずなの。
あのね、GPSってあるでしょ? 地球の周りに飛んでる人工衛星との位置関係で、自分の現在地を割り出すシステム。人生で迷った時の対処も、あれに似てるのよ。たった一つの人工衛星じゃ、自分の現在地は割り出せない。複数の人工衛星から自分の位置を測ってこそ、より正確な位置が出てくるんです。ご投稿者の方は、「潜在意識にある性嫌悪、ホモフォビア」っていう、たった一点の遠い遠い人工衛星から自分の位置を探り当てようとなさっているように見えるの。他にも星がたくさんあることに気づいて、もっとあちこち頼っていいと思うのよ。愛するっていうのはね、世界を広げる冒険だから。
さて、私からも、2発ほど人工衛星を打ち上げようと思います。