新しいサゲの開発
「また夢になるといけない」というサゲは、あらゆる落語のサゲの中でも最も秀逸なものの一つだろう。これをもし変えるとすれば、立川談笑しかいないと僕は思っていた。そして、それは現実のものとなった。
談笑の代表作とも言える『シャブ浜』は、『芝浜』の改作というよりは新作落語に近い。2005年に『シャブ浜』をつくった談笑は、その3年後、本当の「『芝浜』の改作」に取り組み、サゲを考案することになる。
芝の浜で40両入った財布を拾ってきたが女房に夢だと言われた一件から3年後の大晦日。今では表通りに店を構えている。
湯屋から帰ってきた亭主。
「ただいま」
「お帰り。上総(かずさ)屋の件どうなった?」
「決まったよ。年が明けたら河岸の中に仲卸しの店が持てる。お前のおかげだよ。100両あれば河岸の中に大きな店が持てるって言われたときに、お前が『はいよ』って右から左に100両出してきたからな。スゲェな、お前のやりくり上手は」
「稼ぎ男がいればこそだよ」
幸せに浸る二人。やがて、立ち上がってなにか探し始めた亭主に女房が声をかける。
「あたし、折り入って話が」
「いや、俺も話が……」
ふと、なにかを見つけたという顔をして、女房の顔を見る。黙って泣く女房。
「私が噓をついてました、ごめんなさい」
勝五郎が見つけたのは古い革財布だ。
亭主の告白
「怒ってないよ。手ェ上げてくれ。いいから、聞かせてくれよ。俺、これ知ってたよ。……泣かねぇでくれ、ホントに怒ってないから」
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