電気サーカス 第85回

常時接続の黎明期。『テキストサイト』をはじめた“僕”は、友人や高校を退学した真赤たちと自堕落な共同生活を送っていたが、ある出来事で怒りに我を忘れ、彼女を痛めつけてしまう。その後、真赤は自宅に戻ったものの、ふたりの関係は元に……。

 真赤が出て行ってから、この花園シャトーには以前より多くの客が訪れるようになった。
 僕はあまり人を呼ばないから、社交的なオシノさんやタミさんに会いに来ているのだろうが、正直なところ、誰の伝手で来たのかいちいち訊ねるわけでもないので、何故いるのかよくわからないような人ばかりだ。
 目を覚ましたり、外から帰ってくると、どこかで見たことがある人や、見たこともないような人が家でくつろいでいるというのは何やら混沌とした状況である。
 彼らは単に遊びに来るだけでなく、何かから避難するかのように、この部屋にやって来る。
 先週はよっちゃんが泊まっていた。憶えているだろうか? いつだったか、真赤が主催したオフ会で、集団で女性を襲う恐ろしい人たちの集会だというでたらめを吹き込まれて出席を取りやめた、その女性である。
 以前に聞いた話では、お嬢様学校に通う世間知らずの箱入り娘であった筈だが、彼女も短い間に様々なことがあったらしい。
 ネットで大阪の大学生と知り合って、駆け落ち同然で千葉の家を飛び出し、彼のアパートで同棲をしていたのだと言う。そして理想とは大分違った生活をしていたそうだ。つくづく騙されやすい人だ。先日相手の男と喧嘩をしてこちらに舞い戻ってきたのだが、厳格な父親から鉄拳でもって制裁を受け、この花園シャトーにやって来た。
 オシノさんは京都にいた頃に、同棲中の彼女たちとよく会っていたのだと言う。あの頃は、横抱きにする、いわゆるお姫様だっこで急に町中を走り出したりして、仲睦まじい様子を周囲に見せつけていたのにとオシノさんは感傷っぽく言った。
 インターネットは人生を狂わせる。直近では、避妊するしない、妊娠したのしないの、というような部分での言い争いをし、相手の無責任さに愛想が尽きたそうである。親は怒っているし、大学も辞めてしまったし、これからどうしよう。そして生々しい言葉で、その大学生の悪口を言っていた。
 僕もその大学生はネットなどでよく会話をする知り合いであったのと、よっちゃんの顔についた痣が真赤のそれを想起させるのとで、なんとも言えず、無言で相づちを打っていたように思う。
 結局どういう選択をしたのか、僕は知らないが、よっちゃんはいつの間にかいなくなっていた。
 そしてその翌日には、フカミが泊まりに来た。
 フカミというのは、以前の『RM』でデパスを砕き入れたクッキーを配っていた女子大生である。サイトの日記には、映画と音楽と紅茶と向精神薬を大量に飲んだという記事ばかり書いている。最近髪の毛を金髪にして、行動も以前よりいくらかアクティブになった。ろくに家に帰らず、遊び歩いてばかりいるようだ。
 ついこの間、僕も彼女に誘われて新宿で公開されたばかりの映画を観に行った。デビッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』を観たような気がするが、睡眠不足でクタクタだったので内容を憶えていない。その後、近くに彼女の友達のアパートがあるというのでついて行く。てっきりその友達が一人で暮らしているのかと思っていたが同じ大学の男と二人で住んでいる部屋だった。
 彼らは恋人同士でもないらしいが、ただの友達というわけでもない。しかし性交はしているらしい。好きだからしょっちゅうしている。と聞いてもいないのにフカミはぺらぺらと喋った。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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