▼いくつもの提案が出されて大混乱!
フォーク自体がそれほど珍しいことではないとしたら、なぜ今回のビットコインに限って、こんなに大騒ぎとなってしまったのでしょうか。
理由の一つは、ビットコインが世の中に浸透して、利害関係者が大幅に増えたからです。ビットコインは関係者の合議によってルールを決める「民主的な通貨」ですから、関係者の数が増えれば、それだけ議論をまとめるのがむずかしくなります。ビットコインの所有者数は1200万以上になると見られており、世間の関心もそれだけ高まってきたということです。
さらに今回は、コアデベロッパー主導の「セグウィット派(セグウィットを有効化したい)」と、マイナー主導の「ビッグブロック派(ブロックサイズを大きくしたい)」の基本的な路線対立に加えて、コア寄りの一部の人たちが提案した「ユーザー主導のソフトフォーク(8月1日を強制的にセグウィット有効化の期限とする)」に、両者のいいとこ取りを狙った折衷案「セグウィット2x(セグウィットもするけどブロックも2倍以上に増やす)」、さらに一部のマイナーが強行した「ハードフォーク(ビットコインキャッシュという別の通貨を始めた)」が入り混じって、大混乱に陥りました。
とくに7月に入ってからは、明日のことさえ誰も予測がつかないという展開の早さで、実際、7月31日には「セグウィット2x」という妥協案が出てきたことで分裂騒動は収まったのではないかという見方が一般的でしたが、翌8月1日には一部のマイナーが「独立宣言」をしてハードフォークを強制したことが明らかになり、さらに、8月8日にはコアデベロッパーが自分たちのクライアント「ビットコイン・コア(Bitcoin Core)」では「セグウィット2x」をネットワークから切断すると宣言して反撃の狼煙をあげ、いまだに混乱が続いています。
▼ビットコイン分裂騒動は池袋駅と同じ!?
今回の一連の騒動の直接のきっかけは、コアデベロッパーとマイナーの対立でセグウィット有効化が一向に進展しない現状に業を煮やした一部の人たちが、「マイナーの意見ばかり聞くのはおかしい、ビットコインを使っているユーザーにも意見を言わせろ」ということで、セグウィット有効化の期限を2017年8月1日と決める提案をしたことに端を発します。
つまり、おしりを決めて、この日までにセグウィットに対応しないブロックはビットコインとは認めないことにすればいいというわけです。マイナーが賛成するかどうかにかかわらず実施するという提案だったので、「ユーザー主導のソフトフォーク(User-Activated Soft Fork:UASF)」と呼ばれています。
この微妙なネーミングも混乱に拍車をかけたのではないかと思います。本来は、強制的にコインを分裂させるハードフォークは「ハードランディング(硬着陸)」、参加者の合意を得て切り替えるソフトフォークは「ソフトランディング(軟着陸)」のイメージでそう呼ばれているわけですが、UASFは「中身はソフトフォークなのに、やり方はハードランディングそのもの」ということで、どっちがどっちかわかりにくくなってしまったのです。池袋の西武百貨店が東口に、東武百貨店が西口にあって混乱するようなものです。
当然、マイナーからは反発が起きます。そもそもマイナーが拒否してマイニングをやめてしまえば、取引は成立しないわけですから、完全にユーザー主導というわけにもいきません。そこで2017年5月にニューヨークで話し合いがもたれ、セグウィットを実施した後にブロックサイズを倍の2MBにするという「ニューヨーク協定」が結ばれ、中国のマイナーたちもこれに同意しました。その結果、出てきたのが「セグウィット2x」という新しい提案で、要するに、セグウィット派とビッグブロック派の折衷案です。
UASFが設定した期限の8月1日が近づくにつれて、妥協案である「セグウィット2x」へのマイナーの賛成票が集まり、結果的にUASFは回避され、紆余曲折はありましたが、セグウィット有効化も確定しました(実際に使えるようになるのはもう少し先)。
▼一部マイナーが「独立宣言」! ビットコインキャッシュの誕生。
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