電気サーカス 第83回

常時接続の黎明期。『テキストサイト』をはじめた"僕"は、友人や高校を退学した真赤たちと自堕落な共同生活を送っている。ある日、彼女が同居人と同じベッドで眠っているのを目撃。“僕”は怒りのあまり真赤を傷つけ、警察に連行されてしまう。

 パトカーが警察署に到着した時には、もう日が暮れている。
 署につくと、まず僕はよくわからない書類に拇印をとらされ、そして事情聴取がはじまった。
 映画やドラマで見るような、電気スタンドの置かれた机がある、狭い部屋でやるのかと想像していたのだけれど、そういった本格的なものではなかった。僕はまだ逮捕されたわけでもなさそうだから、参考人かなにかといった形での事情聴取なのだろう。人気のない廊下の黒い長椅子に腰掛けさせられて、僕と一緒にパトカーで来た中年の制服警官が、クリップボードを片手にメモを取りながら質問をする。
 あの部屋には友人たちと住んでいる。僕と真赤は付き合っている。昨日は一晩外出し、そして帰って来たら彼女が友人と同じベッドに寝ていたので逆上して殴打した。時々差し挟まれる警官の問いかけに答えながらそう説明した。何かを隠す必要は感じなかったので、ありのままを話した。
 時間の感覚を失ってしまっている上に、携帯電話を家に忘れて来たので正確なところは判然としないが、スムーズに進んだので三十分もかからずに取り調べは終わったろう。警官はボールペンを胸にしまうと、無線を取り出してどこかと連絡をとった。
 その言葉には隠語が使われていて、聞いているうちに、「イチ」と呼ばれているのが僕で「ニ」というのが真赤だと想像がついた。「イチは今私と一緒にいます」「ニはまだ病院にいますか」というような使い方をしている。すぐにそれとわかる符牒を使う意味がわからない。
 それによると、真赤はこれからこの警察署にやって来て、僕はこのままここでそれを待つことになるようだった。警官の断片的な言葉からそう予測を立てていると、通話を終えた警官がそれと同じことを言った。
 そのまま、僕は随分と長いことその廊下で待たされた。どれくらいの時間が過ぎたのか。建物の内側にある廊下らしく、窓らしきものもなかったので空の色で時間の推移を知ることも出来ない。ただ、ひどく長い時間待たされて、ひどく冷えた。薄暗い照明の下でうつむくようにして座っていると、途中警官が温かい缶コーヒーを買ってくれたので、それを飲む。
 しばらく経って、玄関ロビーに場所を移動させられた。ロビーの壁はガラス張りで、その時空の色を見て、夜になっていることを知った。
 ロビーには車庫証明を取ったり、様々な手続きを行うような受付があったが、この時刻になるともう利用者は誰もいない。奥の机で女性の警官が書類整理をしている、カサカサとした紙の音が聞こえる。ほとんどの照明が消えて薄暗く、静かで、まるで深夜のような雰囲気だった。

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電気サーカス

唐辺葉介

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた……。

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