第204回 対応の対応(後編)

《関数とお友達になりたい》と考えるテトラちゃん。さてどんなふうに《お友達》になるんでしょうか。「関数を手がかりに」シーズン第2章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

テトラちゃんの後輩。好奇心旺盛で根気強い《元気少女》。
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図書室にて

後輩のテトラちゃんは関数についておしゃべりをしている(第203回の続き)。

「最大値や最小値を考えることを《関数の特徴を捕らえる》と表現するのもいいけど、 《関数とお友達になる》って表現も何だかいいよね」

テトラ「き、恐縮です。子供っぽい言い方で恥ずかしいんですが……つい、 そういうふうに考えてしまうんです」

「そんなことないと思うよ。特徴を捕らえるにせよ、 お友達になるにせよ、次に来るのは《仲間探し》かもしれないね」

テトラ「仲間探しといいますと……パーティ組むみたいに?」

「ほら、友達だったら《同じ中学校だった》とか、《あの人とこの人はバスケ部》みたいに考えるよね」

テトラ「そうですね。《同じ髪形》とか」

「関数でも《仲間探し》ができそうだなって思ったんだ。つまり、同じ特徴を持った関数を探してみよう!ということ」

テトラ「なるほど……たとえば《最大値が$1$になる関数さんは集まりなさい!》のように?」

最大値が$1$になる関数たち

「うん、そういう感じ。まあ、僕はそこまで具体的には考えなかったけど。 最大値が$1$になる関数よりも前に、 そもそも最大値が存在するかどうかという大きな特徴もあるから」

テトラ「ああ……」

「たとえば、話を簡単にするために、定義域と終域のどちらも実数全体だと決めておくことにすると、最大値が存在するかどうかで関数を二つに分類できるよね?(定義域と終域については第203回を参照)」

テトラ「そうですね。たとえば、関数$2x + 3$には最大値は存在しません。$x$を大きくすれば、$2x + 3$の値はいくらでも大きくできるからです……そういうお話ですよね?」

「そうだね。いまテトラちゃんが言った関数$2x + 3$には最小値も存在しないね」

関数$2x + 3$には最大値も最小値も存在しない

テトラ「はい」

「じゃ、最大値が存在する関数の例は?」

テトラ「それは、さっきも出てきた放物線……二次関数がそうです(第203回参照)」

「具体的には?」

テトラ「たとえば、関数$x^2$だと……あ、これはだめですね。これには最小値はありますが、最大値はありません。上下を逆にして関数$-x^2$ならいいですね。これだと最大値として$0$をとることができます」

関数$x^2$には最小値はあるが、最大値はない

関数$-x^2$には最小値はないが、最大値はある

「そうそう、そうなるね。一般に$x$の冪乗になっている関数は、奇数乗か偶数乗かで分類ができる。$n = 1,2,3,\ldots$としたとき……」

  • 関数$x^{2n-1}$には、最小値も最大値もない($x$の奇数乗)
  • 関数$x^{2n}$には、最小値はあるが、最大値はない($x$の偶数乗)

テトラ「はい。たとえば、関数$x^3$は奇数乗で、最小値も最大値のどちらもありません」

関数$x^3$には最小値も最大値もない

「そうだね。じゃ、今度は最大値と最小値の両方がある関数の例は見つけられる?」

テトラ「最大値と最小値の両方がある関数……あっ、それも先ほど出てきました。たとえば関数$\sin x$ですね。 だって、$-1 \leqq \sin x \leqq 1$が成り立ちますから、最大値と最小値の両方があります」

関数$\sin x$には最大値と最小値の両方がある

「そうだね。それで正解。ただ、テトラちゃんはいま 『$-1 \leqq \sin x \leqq 1$だから最大値と最小値がある』と説明したけど、 これはちょっぴり言葉不足だよ」

テトラ「言葉不足……といいますと」

「グラフも描いているからテトラちゃんはわかっているはずだけど、どんな実数$x$に対しても 『$-1 \leqq \sin x \leqq 1$が成り立つ』のように不等式を書くだけじゃなくて、 $\sin x = -1$になる実数$x$が存在するし、 $\sin x = 1$になる実数$x$も存在する、といわなくちゃ。 不等式が出てきたときには等号成立を意識しないと」

テトラ「ははあ……確かに」

「不等式を書くだけじゃよくないと思ったのはね、$\sin x$の値を考えてみると、どんな実数$x$に対しても、 $$ -123 \leqq \sin x \leqq 456 $$ という不等式だって成り立っているから。 $\sin x$の値はぜったいに$-123$以上だし、$456$以下だよね。 でも、$\sin x$の最小値は$-123$じゃないし、最大値は$456$じゃない」

テトラ「はい、先輩のおっしゃることはよくわかります。テトラはうっかりしていました。等号が成立するか気を付けよですね」

「でも、テトラちゃんがいうように$\sin x$には最大値も最小値も存在するのは確かだよ。最大値は$1$で、最小値は$-1$だよね」

テトラ「……」

「どうしたの?」

テトラ「はい……あのですね。先ほど考えた関数、たとえば$x^3$は最大値も最小値も存在しません。 それに対して、$\sin x$は最大値も最小値も存在します。 $y = x^3$や$y = \sin x$のグラフを描けば、確かに両方の関数は違うとわかるんですが、 最大値と最小値の存在を考えるだけでも、 確かに違うといえるわけですね……そんな、 あたりまえのことで感心していました」

「うんうん。特徴を捕らえるってそういうことだからね」

テトラ「《関数とお友達になる》としたら、いろんなことを知ってたほうがいいですね。『あなたのこと、もっと教えてくださいな』って聞くみたいに」

「質問すると、関数によって答えは違うわけだね」

テトラ「はい。関数$x^3$の値はいくらでも大きくなりますし、いくらでも小さくなります。でも、関数$\sin x$の値はそうじゃありません。 ふにゃふにゃと波打ってはいますが、 $-1$以上$1$以下の範囲に収まっています。 あっ、これって二つの関数の値域を比べているということですね?」

「うん、その通りなんだけど、テトラちゃんの言葉は少し気になるよ」

テトラ「あっ、また《ふにゃふにゃ》だなんて、子供っぽい言い方をしちゃいましたっ!」

「いやいや、そっちじゃなくて。あのね、いまテトラちゃんは関数$x^3$の値は、《いくらでも大きくなるし、いくらでも小さくなる》って言ったけど、 それはどういう意味で言ったの?」

テトラ「え、ええと……$x^3$の値はいくらでも大きくすることができますし、いくらでも小さくすることができます。 そう言ったのは、定義域を実数全体で考えているからです。 $x$の値はいくらでも大きな実数にできますから、 $x^3$の値はいくらでも大きな実数にできます。 そして、マイナスにすれば、いくらでも小さな実数にできます……あっ、 言い換えるなら、関数$x^3$の値域は実数全体になります……そうですよね?」

「うん、それは正しいよ。定義域を実数全体で考えるなら、関数$x^3$の値域は実数全体になる。そう表現すれば正確に考えが伝わるね」

テトラ「す、すみません……あたしには、先輩が何を気になさっているのか、まだわかっていないようです」

「あ、ごめんね。僕は《いくらでも大きくなる》や《いくらでも小さくなる》という言葉は、考えようによってはあいまいで誤解を生むかも、と思ったんだよ」

テトラ「そうなんですか……あたしは、グラフを想像しながら話していたので、誤解を生むかどうかはわからないんですが」

「たとえば、関数$e^x$を考えてみたらわかるよ。定義域はさっきと同じく実数全体とする。そのとき、指数関数$e^x$には最大値と最小値は存在するだろうか?」

クイズ(指数関数)

定義域を実数全体とする。

関数$e^x$には最大値は存在するか。また最小値は存在するか。

テトラ「$y = e^x$のグラフはこういうものですよね?」

指数関数$y = e^x$のグラフ

「そうだね」

テトラ「最大値は存在しませんよね。だって《いくらでも大きく》なりますから」

「じゃ、最小値は?」

テトラ「最小値は$0$じゃ……ないですよね? 最小値は存在しない?」

「うん、そう。そうなんだ。指数関数$e^x$には最小値は存在しない。最大値も最小値も存在しないね」

クイズの答え(指数関数)

定義域を実数全体とする。

関数$e^x$には最大値は存在しないし、最小値も存在しない。

テトラ「えっと、関数$x^3$と$e^x$はどちらも最小値はないですけれど……比べてみると、何となく、先ほど先輩がおっしゃったことがわかったように思います。 とても小さい値を持つ$x$を考えたとします。たとえば$x = -10000$のように。 そうすると、$e^x$の値はとても$0$に近くなりますが、$0$にはなりません」

「うん、そうだね。それで?」

テトラ「それで、$x$の値として、もっと小さなものを選んだとすれば、$e^x$の値はもっと$0$に近づきます。でも$0$にはなりません。$e^x$の値はぜったいに$0$にはなりません。でも……でも、 $x$の値を小さくすればするほど、$e^x$の値は小さくなっていきます」

「うんうん」

テトラ「もうこれ以上$e^x$の値を小さくすることはできない! なんてことは起きません。$e^x$がすごく小さくなっても、$x$の値をもっと小さくすれば$e^x$の値はもっと小さくできます」

「ということは《いくらでも小さく》できる?」

テトラ「ううう……先輩はこういう《あいまいさ》を気になさっていたのですか……《関数$x^3$の値はいくらでも小さくできる》と、《関数$e^x$の値はいくらでも小さくできる》というのはずいぶん違う状況ですね」

「うん。その二つの状況をちゃんと区別すると、こう整理できるかな。定義域と終域のどちらも実数全体であるような関数$f$を考えたとして……」

関数$f$の値は《いくらでも小さくなる》とは?

  • 【状況1】どんな実数$m$に対しても、$f(a) < m$となるような実数$a$が存在する
  • 【状況2】どんな実数$b$に対しても、$f(c) < f(b)$となるような実数$c$が存在する

テトラ「……」

「グラフで描くとこうなるね」

【状況1】どんな実数$m$に対しても、$f(a) < m$となるような実数$a$が存在する

【状況2】どんな実数$b$に対しても、$f(c) < f(b)$となるような実数$c$が存在する

テトラ「なるほどなるほどなるほど! 関数$x^3$は【状況1】で、関数$e^x$は【状況2】ですねっ!!」

「もちろん、《いくらでも小さくなる》や《いくらでも小さくできる》という表現が何を意味しているか、 ちゃんと相手とわかりあっているなら問題はないんだよ。誤解しなければ何も問題はない。 でも、相手に正確に伝えたいときには注意しないとね」

テトラ「はい。先ほど先輩が整理してくださったのでわかりました。《いくらでも》というのが、 何と比較しているのか不明確になるときはあぶないですね」

「そうだね。いまは終域を実数全体で考えているから、【状況1】の方は終域の要素$m$と比較しているし、 【状況2】の方は値域の要素$f(b)$と比較しているという違いがあるわけだ」

テトラ「なるほどっ!」

「定義域が実数全体のとき、関数$x^3$の値域は実数全体の集合だね。そして関数$e^x$の値域は……」

テトラ「ちょっとお待ちください。テトラが答えます。関数$e^x$の値域は$0$より大きい実数全体の集合ですね?」

「そういうことになるね。そして、関数$e^x$には最大値も最小値も存在しない」

テトラ「……関数$e^x$には、最大値も、最小値も存在しない……」

「あれ、テトラちゃんは、理解しているよね?」

テトラ「はい。はいはい。理解しています……あのですね。関数$e^x$で《最大値が存在しない》というのは、 先ほどの【状況1】と似ています。不等号は逆向きですけれど。 つまり、どんな実数$m$に対しても、$e^a > m$という実数$a$があるということです。 でも《最小値が存在しない》というのは【状況2】です。 つまり、どんな実数$b$に対しても、$e^c < e^b$という実数$c$があるということ……ですね。 同じ《存在しない》でも、状況が違うんだなあ……と思ったんです」

「なるほど、そうだね。存在しないという点は同じだけど、有界(ゆうかい)かどうかの点が違うと表現できるね。 関数$e^x$の値域は$0$より大きい実数全体の集合になる。 下に有界だけど、上に有界じゃない」

テトラ「なるほど……《有界》という表現があるんですね」

テトラちゃんはさっとノートにメモをとる。

全射

テトラ「先輩と関数のお話をしてきて、定義域、終域、それから値域について、 だいぶわかって……だいぶ慣れてきたみたいです」

「それはよかった。テトラちゃんは終域のことを気にしていたからね」

テトラ「はい……関数を定義しているとき、定義域の方は一つ残らず使うのに、 終域の方は余ってもいいというのが変だなと感じたんです。 でも、きっちり使い尽くす値域という言葉があると知って納得です」

「終域と値域が一致する関数があってもいいんだよ、もちろん」

テトラ「はい、それはわかります。たとえばさっきの関数$x^3$もそうですよね。 定義域と終域をどちらも実数全体として考えたとき、 値域は終域に一致します。$x^3$はどんな実数の値でも取ることができますから」

「うん。そういう《終域と値域が一致する関数》のことを全射(ぜんしゃ) っていうんだよ」

テトラ「ああ……それは以前お聞きしたことがあります(『数学ガールの秘密ノート/場合の数』)。全射と単射と全単射。こういう図で覚えています」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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コメント

hyuki 金曜日は『数学ガールの秘密ノート』の日。最新回は今回お休みですが、過去記事の無料リンク2個をツイートします。 公式 10ヶ月前 replyretweetfavorite

wed7931 「上に(下に)有界であることを示す」ことと「上限(下限)を求める」ことがごちゃごちゃになっていた時期を思い出した。もう少し不等式とお友達になりたい。 12ヶ月前 replyretweetfavorite

chibio6 終域と値域を分けて考えなければ、関数 x^2 が全射でないということが理解できないところだった。丁寧に考える癖を身につけたい。 12ヶ月前 replyretweetfavorite

kusyunn ぜんたんしゃ 12ヶ月前 replyretweetfavorite