三十路過ぎの女が実家に戻るのは都落ち感が半端ない

どうにも自分の気性をコントロールするのが難しい百鳥ユウカさん。察してくれない池崎に嫌気がさし、発作的に実家に帰ることにしたユウカだったが、いざ戻るとなると、いろいろと湧き上がる思いがあるようで……。

「距離を置こう」

このセリフはだいたいのカップルにとっては別れの言葉だ。統計をとってはいないけど、おそらく7割5分くらいのカップルがそのままなし崩し的に2ヶ月後くらいに別れを選択することになるだろう。

いわゆる自然消滅を狙って相手にこう告げる人もいるけれど、ユウカにそのつもりは100%なかった。

あんなに思わせぶりなセリフを吐いたくせに、自分勝手でマイペースなユウカらしく、池崎と別れるつもりは全くないのだ。本当に距離を置きたいから「距離」を置こうと告げた。

しかし、池崎にしてみたらどうだろう? とユウカはふと思った。

池崎は別れを告げられたと思ったかもしれないと考えたユウカは、ひとつ補足をした。

「週末は磯子に来るから。でも、平日は、調布の実家に住むことにするよ」

それを聞いて、池崎は本当にユウカが距離を置きたいだけなのだと悟った。こんなことでユウカは嘘はつかないことを知っている。

「でも、ユウカさん、ハローワークの職業訓練は?」

「もう、そろそろ終わりそうなの。3ヶ月受講したら、いよいよ職探しをするつもりだったけど、一旦実家に帰るよ」

そうあっさり告げて、その晩ユウカはさっさと就寝した。池崎もユウカの隣でいつものように寝た。

翌朝、ユウカは一週間分の着替えと化粧ポーチを持って、磯子のマンションを出た。池崎はすでに仕事に出かけたから見送りはいない。朝出かけるとき、池崎は何かを言いたげだったけど、口をつぐんだまま家を出ていった。いまさら自分が何を言ってもユウカは変わらないし、むしろ逆効果になると考えたのだろう。

「それじゃ、行ってきます」

「うん、また週末にね」

池崎が仕事に出かけた後、ユウカは、このことが原因で池崎の気持ちが離れるのが嫌だったから、一応、今晩のおかずと日持ちのする保存食を一週間分作って、冷蔵庫の中をぱんぱんにしておいた。たまっている洗濯物は洗って、部屋の中に干しておいてある。ユウカは家の戸締りをしているときに、ふと池崎は今夜、真っ暗な部屋に帰ったとき何を考えるかな、と思った。ぶっちゃけて言えば、そのとき、私がいないことを寂しいと思ってほしいけど……どうかな?

まだ少し不安だったユウカは、部屋に掃除機をかけた。(よし……これで私が別れるために出て行くわけじゃないこともわかるでしょう。それに池崎なら寂しいと思ってくれるはず!)そして、このことについてはそれ以上考えることをやめた。なんとも自分でも面倒くさい性分だと思う。

磯子駅につくと、京浜東北線で品川まで向かう。

平日の昼間は、乗客もまばらだ。

揺れる車内で、目を閉じると、とりとめもない思いが現れては消えていく。車窓を流れる横浜郊外の風景。クッションの反発が強くて逆に座り心地の悪いシート。青い色で統一された車内は、ユウカの心をあらわしたようだった。

「ほんとに何やってるんだろうね、わたし……」と独り言。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
結婚できない2.0〜百鳥ユウカの婚活日記〜

菅沙絵

友人たちが彼女につけたあだ名は「レジェンド・ユウカ」。結婚市場に残された最後の掘り出し物という意味だと説明されたが、たぶん揶揄する意味もある。妥協を知らない彼女が最後にどんな男と結婚をするのか、既婚の友人たちは全員興味深げにユウカさん...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

tjmlab 都落ち… https://t.co/CbJxNv9KLV 26日前 replyretweetfavorite

konpyu 都落ちわろたw 27日前 replyretweetfavorite