当時、土岸はモテていたし、調子に乗っていた。
彼女と別れても次の彼女がすぐにでき、女友だちもやたらと多かった。ブルドーザーが荒れ地を均すように、土岸はきまぐれ恋愛オレンジロードを突き進む。
──モリ、お前も早く大人になれよ。
言われる小森谷くんは反発を覚えるものの、何も言い返せることはなかった。土岸の言うこともやることも大人に思え、土岸に追いつかなければ、という思いがあった。
高校のときからつるんでいる仲間なのだが、悪いセンパイとか兄貴というような感じだった。
「土岸、おれ、高山さんと別れたよ」
「そうか」
コンビニの弁当を食べ終えた土岸は、残ったパッケージや割り箸をポリ袋に放り込んだ。
「まだおれも、別れたってことを、うまく消化できてないんだけど」
「……ああ」
目を伏せるようにした土岸は、なかなかこっちを見なかった。
高山さんは土岸の中学の同級生だし、好意があるらしいよ、と教えてくれたのも土岸だった。
思いやりが足らない、と厳しく注意されたことは、彼にとって痛恨の経験だ。
また責められたり、何か言われるかもしれないな、と、彼は身構えていた。だけどどんなことを言われても、今回ばかりは受け入れなければならない。
「高山と付きあって、いい勉強になっただろ」
顔をあげた土岸は、あっけらかんとしたトーンで続けた。
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