後編】世界に出るのは30代でもいい

さまざまな国際的プロジェクトにかかわる建築家・筒井康二さん。30歳まで日本で暮らした筒井さんですが、休学時の旅行で目の当たりにしたヨーロッパ建築に大きく影響を受けて、街と建物に流れる「物語」を意識するようになりました。筒井さんの建築に流れる「物語」について聞いていくうちに、建築の力と、建築にとどまらず世界をめざすことの意味が見えてきます。(聞き手:古賀史健)

物語が流れる、街のような建築を

— ここからは具体的に、筒井さんの建築についてお伺いします。建築家にはいつごろになろうと考えていましたか?

筒井 じつは大学時代、応用物理や数理制御といった、数学者の道に進もうと思ったこともあるんですよ。だけど、やっぱり建築への夢を捨てきれず、大学2年生のときに1年間留年して建築学科に進み直したんです。

— それはおもしろい経歴ですね。

筒井 それでどうせ留年するのなら、と大学を半年くらい休んで、世界を旅しました。このとき、ヨーロッパの建築を見ていちばんおもしろかったのが、街と建物に流れる「物語」だったんですね。たとえばガウディのサグラダ・ファミリアも、当時は「完成までにあと200年かかる」といわれていて、しかも「200年のうちに崩れる部分もあるから永遠に完成しない」とされていた。建物自体もおもしろいんだけど、そういう物語のほうに強く惹かれたんです。

— たしかに物語が理解できると、建築やアートの魅力は倍増します。お写真で拝見するだけでも、筒井さんの建築には一貫したテーマが見受けられますね。

筒井 世界にはいろいろな街があって、そこにはいろいろな建築があります。街の面白さってありますよね。直線的な大通りがあって、入り組んだ路地があって、その先に広場があって、それぞれに物語があります。でも、一般的には、建築は、街の一部としてつくられているだけと思われている。それで、もし建築自体が、街みたいだったら面白いのではないか、たとえば、時間とともに建築が拡張して街にならないかと、考えるようになったのです。だから僕は、自己紹介するときに「僕の建築は街になるんです」と言ったり、「たくさんの部屋を集めたら街のような建築になっちゃいました」と言えるような、物語のある建築にしたいんです。建物に対する既製の概念を取り払って、ひとつひとつの部屋にはなにが必要なのか、部屋と部屋はどうつながるべきなのか、街や集落の視点をもって考えていきたい、というか。

— うーん、すみません。素人なもので、具体的な姿を思い浮かべるのがむずかしいです(笑)。

筒井 このあたりは、実際の建物を見ながらお話したほうが早いでしょうね(笑)。まず、これが軽井沢の「INBETWEEN HOUSE」という住宅になります。



INBETWEEN HOUSE 03.2009 - 06.2010, Karuizawa, Nagano, Japan


INBETWEEN HOUSE の図面イメージ


軽井沢の自然に溶け込む INBETWEEN HOUSE

— へええ、かなりおもしろい外見ですね。

筒井 一般的な住宅では、ひとつの建物を壁で区切って、部屋の間取りをつくっていきますが、この住宅は部屋を起点に考えた建築になります。山荘風の部屋をひとつのユニットとして考えて、まずは5個のユニットを用意する。そこから「個々の部屋はどのようにつながるべきか?」を考えるわけです。

— ああ、「たくさんの部屋を集めたら街のような建築になっちゃいました」のパターンですね!



開放的なリビングルーム


路地のようなのすき間の空間。リビングから寝室側を見る


路地のようなすき間の空間。外に繋がる

筒井 そうです。「INBETWEEN HOUSE」では、プライベートルームが完全に分離せず、家族のパブリックスペースを中心にゆるやかにつながっています。実際、街の構造もこんな感じなんですよね。だからこれを拡張していくと、そのまま街のような住宅ができあがるんじゃないか、集落のような住宅が可能なんじゃないかと思っています。
 この家が2つつながると2世帯家族の関係になるし、もっと拡張していけば集落になり、都市になっていく、と。

— 路地を歩いていたら突然広場に行き着くように、それぞれの部屋からリビングルームに行き着く。

筒井 はい。この考え方をもう少し拡張したものが、ハイチにあるこちらの建物になります。



HAITI MONASTERY 03.2009 – Haiti, Church, School & Orphanage

— これはどういう用途の建物なんでしょう?

筒井 2010年の地震で親を亡くした孤児のための住宅と学校です。ミッション教会からの依頼でした。ヒアリングの結果、住宅、学校だけでなく、教会のようなスペースがほしいということでしたので、この形にしました。


一般的な学校や孤児院とは大きくイメージが異なる

— 一般的な孤児院や小学校のイメージとはかなり違いますね。

筒井 小学校のような長方形の大きな建物をつくると、たしかに立派に見えるし、汎用性も高いんです。けれど建物の場合、必ずしもフレキシブルであることがいいとは限らない。たとえばハイチに長方形の小学校をつくっても、政変などによってそれが軍の施設に使われたり、商用利用されることも考えられますよね。
 僕はせっかく孤児院をつくるのなら、孤児院以外の用途には使えないような建物にしたかったんです。

— 部屋がランダムに配置されることで、微妙な隙間が生まれています。

筒井 はい。この孤児院は、孤児たちが寝泊まりするだけでなく、学校の機能も果たしています。だから、あまりガチガチに部屋を詰め込んでしまっては、息苦しくなる。家族のようにつながりながら、息苦しさをなくしていく。そのためには、これくらいの適度な距離感を残しておきたい。近すぎもせず、遠すぎもしない関係ですね。



ランダムに配置された部屋が、微妙な空間を生み出す

— おもしろい! 部屋の配置や距離感が、そのまま人間関係の距離感につながるわけですね。

筒井 そうです。中庭のような共有スペースは、みんなの校庭として使ったり。また、この形状だと孤児が増えたときの増築も簡単なんですよ。基本的には箱を増やしていくだけなので。予算に合わせて少しずつ、街づくりのようにつくっていくことができます。

建築にはコミュニティを再生させる力がある

— 東日本大震災後の東北復興にも、アイデアをお持ちだと聞きましたが。

筒井 東北の復興でいちばん大切なのは、コミュニティの再生だと思います。それで、仮設住宅を直線に並べるのではなく、こんな感じでランダムに並べた集落ができないかと。東北に何度も足を運び、多くの市長さん、村長さんとお会いして、案をつくってみました。



コミュニティ再生に向けた東北復興プロジェクト案

— こうやって見てみると、不規則なようで規則性があるのがわかります。

筒井 このユニットのつなげ方は、ハイチのプロジェクトと同じようにフラクタル構造になっているんですね。つまり、部分と全体が同じかたち(自己相似型)になっている。だから小さな集落にも対応できるし、どこまでも大きく拡張していくこともできる。

— なるほど、そこに数学者的な発想も生かされているんですね。

筒井 そうなるのかもしれませんね。僕は街や集落が好きだし、たとえ仮設住宅であっても、集落的な構造がないとほんとうのコミュニティは再生されないと思っているんです。

— いわば、街をつくるために家をつくる。

筒井  個々のユニットについてはそんなに凝ったものをつくる必要はないと思います。住宅メーカーさんがつくっても、町の工務店さんがバラバラにつくってもかまわない。ただ、新しいコミュニティのあり方を提案したいんです。

— 今後、大きなプロジェクトなどの予定は?

筒井 インド東部のブッダガヤ(Bodh Gaya)という場に、ホテル、会議場、ミュージアムを建築する計画が進んでいます。ここはお釈迦様が悟りを開いたとされる宗教的な聖地なのですが、いわゆるインドの大都市とは全く違い、とても厳かな場所です。最も貧しい地域でして、今回のプロジェクトを通して、ブッダガヤの街づくりに関われたらと。

— どのようなホテルになるのでしょう?

筒井 いわゆる大きな建物が並ぶリゾートホテルではなく、瞑想するための厳かなホテルというイメージですね。これまで提唱してきた集落的な価値観に基づいて、また日本の禅的要素も取り入れながら、修道院の仏教バージョンみたいな癒やしや静寂を大切にしたホテルにしたいと思っています。

なぜ世界をめざすべきなのか?

— そうやって国際的に活躍される筒井さんから、日本のビジネスパーソンにメッセージはありますか?

筒井 まずは英語によるアウトプットですね。いいアイデアを世界に発信するなら、とにかく英語にしないといけない。たとえば僕のオフィシャルサイトの文章も、英語にするだけで閲覧者の数が2桁か3桁変わってくる。現在では日本語化が間に合ってないくらいです(笑)。インターネットにはたくさんの情報があふれているように思えるかもしれませんが、英語ができるようになるだけで、その世界は何十倍、何百倍にも広がりますよ。

— とはいえ、これから英語が身につくのか、筒井さんのように自分が海外で勝負できるのか、不安に思う読者も多いと思います。

筒井 僕は逆に、海外に出るなら30歳から35歳くらいがベストだと思っています。日本で働いて、社会人としての基礎をしっかり身につけてから海外に行く。建築家やアーティストに限らず、日本のビジネスパーソンって、プレゼンテーション能力以外は世界のトップクラスなんですよ。20代のうちに基礎体力を身につけて、30歳を過ぎてから世界に出ていく。僕はそうやってきたし、実際に周囲の人たちを見ていてもそのほうがいいと思います。語学力は30歳や35歳を過ぎても十分間に合います。

— 日本のデザインが一流であるように、日本のビジネスパーソンも一流だと。でも、プレゼンテーション能力だけが欠けている。

筒井 プレゼン能力については、先ほどお話ししたミーティングの文化にもつながるのかもしれませんね。日本人同士であっても、役職や年齢に関係なく積極的に意見できる環境づくりが大切だと思います。

— 建築家としての立場からいえることは?

筒井 ものづくりにたずさわる人は、常に「世界」を意識すること。たとえば、世界で通用するようなマンガを描こうと思ったら、万国共通の部分、それこそ人間の本質に迫るようなところまで描かないといけないと思うんですね。
 これは建築もまったく同じで、日本国内だけを見てやっていると、どうしても小手先の議論になってしまって、本質を考える機会が減ってしまう。「世界」を意識していれば、自然と本質に目が向くようになるはずです。

— 世界で勝負するために海外進出するのではなく、本質を見極めるために海外進出を考える。

筒井 僕自身、米国で働きたいから渡米したわけではなく、このまま米国だけを拠点にするつもりもありません。世界のどこでも働けるようになりたいし、そのために人間の本質を理解した建築を追求していきたいんです。

— なるほど。海外で働くこと、世界で生きることへの考え方が大きく変わった気がします。これからも益々のご活躍、期待しています!

筒井 こちらこそ、どうもありがとうございました。

 

<おわり>

 

筒井康二(つつい・こうじ)
建築家。1972年東京都生まれ。東京大学建築学科卒業。安藤忠雄建築研究所勤務を経て、2004年にロンドン大学バートレット校大学院卒業。同年、筒井康二建築研究所を設立。2007年に渡米、以来サンフランシスコに拠点を置く。米国の若手建築家の登竜門である Design Vanguard 2011とArchitectural League Prize in New York 2012の2つを受賞、2009年 Global Holcim Awards, Finalist、 2011年World Architecture Festival住宅部門Winner、などの建築賞を数多く受賞し、2012年よりカリフォルニア大学バークレー校にて客員准教授を務める。
オフィシャルサイト: KOJI TSUTSUI & ASSOCIATES 


インタビュー
古賀 史健(こが・ふみたけ)

フリーランスライター。1973年生まれ。一般誌やビジネス誌で活動後、現在は書籍のライティング(聞き書きスタイルの執筆)を専門とし、実用書、ビジネス書、タレント本などで数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズ(講談社)は累計70万部を突破。2012年、初の単著となる『20歳の自分に受けさせたい文章講義』(星海社新書)を刊行した。cakesでは『文章ってそういうことだったのか講義』を連載中。
ブログ:FUMI:2
Twitterアカウント:@fumiken

 

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この連載について

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世界をめざす、たったひとつの理由—建築家・筒井康二インタビュー

古賀史健

サンフランシスコを拠点に国際的な活躍をみせる建築家・筒井康二氏。小さい頃から英語に慣れ親しむ生活をしていたのかと思いきや、30歳でロンドンに留学するまで、ずっと国内で活動していたと言います。彼が日本から世界へとシフトできた背景には、ア...もっと読む

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コメント

amcd_grfk ⬇ある意味、構造と力(フォース)についての話ですな。 https://t.co/Cf8vJW0Ybl 約5年前 replyretweetfavorite

amcd_grfk なとりさんがレコメンしてたコレ、フルクタル、距離感、コミュニティ、物語を巡るとてもいい話でした!ゼヒ◎☞街をつくるように建築をつくる 約5年前 replyretweetfavorite

tommynovember7 心理的距離を建物で表現することでコミュニティ全体をデザインする。面白いなー。もっと読みたい。 約5年前 replyretweetfavorite

fumiken 「ものづくりにたずさわる人は、常に『世界』を意識するべき」と語る筒井さん。その理由とは? 必読です。https://t.co/0YfxUdFLYH 約5年前 replyretweetfavorite