フリーランスになってもフリーター時代の焦りが抜けない

30歳になってフリーランスになった牧村さん。「フリー」という解放的な言葉とは裏腹に、今月、牧村さんは泣いているかツイッターを見ているか胃の薬を飲んで寝ているかしていたのだそう。一体どうしたのでしょうか? 牧村さんがいま置かれている状況と心境について、丁寧に綴っていただきました。

※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。
むかしむかしの11年前、私は、19歳のフリーターだった。

人間関係その他で大学を辞め、大学を辞めた罪悪感を振り払うように私は楽器屋とケーキ屋とバーと単発イベントバイトを掛け持ちしてゴリゴリに働いた。時給850円、社会保障なし、有給なし、将来の夢、なし。現在何か理由や事情や目標があってフリーターをしていらっしゃる皆様をとやかく言うつもりは一切ないが、少なくとも、私は、辛かった。

30歳になってフリーランスになった。それを機に、こんな会話をした。

「フリーターとフリーランスの違いってなんだろうね」

「両方フリーってついてるけど、フリーターやってた頃は、私、フリー感全然なかったわ。超不自由だし、不安しかなかった」

「それがフリーランスになったら何が変わったと思うの」

「うーん。ランスがある、ってとこかな。ランスって、ヤリ、って意味じゃん。ヤリって武器でしょ。職業的技能って、武器なんだよ。社会を渡っていくための。私はフリーランスの文筆家として、文章というランスで戦ってると思う」

「はあ〜、フリーランスには、ランスという武器がある。フリーターにあるのは……」

「フリーターにあるのは……」

「……ター?」

「ター……」

ターでは、戦えなかった。私は戦えなかった。言葉の響きからして戦意が喪失する。フリーターのターって「フリーアルバイター」の「ター」であって、その「ター」は英語の接尾辞の「er」、「何かをする人/もの」って意味だ。言うなればフリーター時代の私には、「私はアルバイトをする人です」という意識、名付けて「ター」だけがあったのであり、ターではフリーに戦えなかった。それが、今では、ランスを、手に入れた。

それでも、なぜだろう。私は、私にターしかなかった頃みたいに、不安なのだ。

具体的に言うと私は今月、あまり働いていない。じゃあ何をしているかというと、泣いているかツイッターを見ているか胃の薬を飲んで寝ている。この連載が書籍化するので(ありがとうございます)、書籍だけで読める渾身の書き下ろし原稿を書こうと思って、私の人生の中で苦しかったけど学び多かったことランキング暫定一位の出来事について毎日めちゃくちゃ考えているのだが、これが、つらい。なので泣くし、逃げるし、悩むし、急に海辺に走りに行くし、胃が荒れる。よって月収が下がる。劇的に下がる。考えたくないけど今月はギリ10万ちょいだと思う(ゼロにならないのはcakesを購読してくださるあなたを始め読者の皆さんのおかげです、ありがとうございます。あと、締め切り直前で送っても対応してくれる担当編集さんと、締め切り直前までかかっても極力連載を休まない私自身の根性にもありがとうございます)。

私は就業不能保険に入っていないし、誰に雇われているわけでもないので当然有給での病気休暇も取れない。今、病気休暇という言葉が存在するかどうかググってしまったくらい、会社に守られる生き方を知らない。一応ちょっとは国家や周りの人が守ってくれるとはいえ、自分でどげんかせんといかん、と思うあまり、浮上するのが、これだ。

休んではいけない、と思っちゃう感。

例えば、私は月イチで旅行に行くが、「月イチで旅行に行くなんて」という意識が強く、旅行先で必ず取材をして原稿にしてしまう。いやもちろん、それは、旅先で見た素晴らしいものを伝えたいから書く、書くのが好きだから書く、というのもあるのだけれども、問題なのは、旅行中における取材をしていない時のなんとも言えない罪悪感だ。寝る前に「今日もし働いてたら何本くらい原稿が書けたからいくらの稼ぎになったはずだ」って計算してしまうあの感じだ。

それと、もう一つ。未だに自分の仕事を時給で考えてしまう感じ。

一日が終わり、ベッドに入るときに、「今日は何を成したか」ではなく「今日は何時間働いたか」で一日を評価してしまう自分に気づく。「いやいや、何時間Wordに向かったか、じゃなくてさ、どれだけ面白く人の役に立つものを書けたか、じゃん? 時間じゃなくて質の問題じゃん?」って自分で自分にツッコミを入れるのだけれども、次の瞬間、こう思っている。「明日は9時間働こう」

なんだろう?

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes・note会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

初回を読む
ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

grho1004 いついつもながら、いい https://t.co/aopGpP0Oi1 1年以上前 replyretweetfavorite

jabton_ 「飛べない私の声はトンビに向かって飛んでゆき、そこに時給が発生しない。」 ↑この一文が、とても好きだ。 1年以上前 replyretweetfavorite

moxcha この連載は繰り返し読みたいと思っていたので、書籍化楽しみに待っています。 1年以上前 replyretweetfavorite

makimuuuuuu 【新作エッセイ】 「 1年以上前 replyretweetfavorite