最低なことをした後に、電話で謝る勇気

人としての思いやり、優しさなど、様々なものが足りない小森谷くん。土岸に指摘され、彼女を傷づけたことにようやく気付いた彼は、深く反省するが……。
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

『昨日の夜はごめんなさい。高山さんは疲れていたし、朝も早かったのに、ごめんね。

 一日経って、自分がヒドいことしたのに気付きました。本当にごめんなさい。本当にごめんね』

 長い時間をかけてメールを書いた彼は、日付が変わる直前に送信した。だけど返事がこなくて、彼はまた、いてもたってもいられなくなった。

 だけど一時間くらいすると、彼女から返事が届いた。

『ううん、気にしてないよ。今うとうとしてて、返事遅くなっちゃってごめんね。じゃあ、おやすみね』

 その文面を見て、彼は泣きそうな気分になった。

 こんな自分を許してくれるなんて、高山さんはなんて優しいんだろう。

 それに比べて、自分はなんてダメなんだろう。どうすれば自分は、仁義を身につけることができるのだろう……。

 反省し、泣きそうになりながら考える彼だったが、全くわかっていないことがあった。

 昨夜、彼のせいで高山さんはほとんど眠れなくて、だから今うとうとしているのだ。

 日付が変わる時間にメールを送ることの是非はともかく、そのことに何も思いが至らないという点に、当時の彼の根本的な問題はあった。

 彼はもうすぐ二十一歳だった。仁義がわからないと悩む彼だったが、問題はそういうことではない。

 きっと“仁義”などというのは一つの、“人としての理想”を象徴する言葉だ。

 つまり彼に足りないのは仁義だけではなかった。

 優しさも、思いやりも、真面目さも、思慮深さも、彼にはまだ何もかもが足りていなかったのだろう。

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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