──先生、おれ、幸せになりますね。
それから彼と高山さんは、デートを繰り返した。彼女はそれなりに楽しそうにしていたが、彼は“次にどうすればいい”ということばかりを考えていた。
初めてできた彼女と仲を深めるために、次は何をすればいいんだろう。
「来週から、おれら三人暮らしをするんだよ」
「えー! ホントに? 楽しそう!」
高山さんは嬉しそうに笑った。
「じゃあさ、引っ越すとき、手伝いに来る?」
ふやけた頭で、彼は誘った。
「うん。バイトがあるけど、行けそうだったら、行くよ」
引っ越し当日、結構遅い時間の作業になってしまった。
軽トラで土岸家、小森谷家、岡本くんの部屋、と順に回り、荷物を積む。一度では無理だったので、三往復する。
荷物を運び終えた二十三時過ぎに、バイトを終えた高山さんが駈けつけてくれた。
「ごめんねー、遅くなっちゃって」
「いやいや。じゃあ、今日泊まっていけば?」
“次”を期待する彼の脳は、中央の芯のほうまでふやけていた。
「うーん、どうしようかな」
「いいじゃん、泊まっていきなよ」
「……うん、そうする」
作業はまだまだ続いた。
三人と高山さんは、荷物をそれぞれの部屋に運んだ。リビングやトイレなどの共同スペースに、岡本くんの持ってきた一人暮らし用の家具を収める。
足りないものをコンビニに買いに行く。それぞれの荷物を、それぞれの部屋に運ぶ。
三時を過ぎる頃、まだ開けていない段ボールもあったけど、ひとまず作業を終えることにした。
「あー、眠いわ。おれもう寝るね。高山、今日はありがとうね」
土岸は高山さんにお礼を言って、二階の自分の部屋に向かった。
「おれも寝るわ。みんなお疲れー」
岡本くんも眠そうな顔をして、二階の部屋に向かった。
「……じゃあ、おれたちも寝ようか」
「うん」
彼の部屋は一階で、リビングの隣にあった。まだ開けてない段ボール箱を隅に押しのけ、彼は実家から運んだ布団を敷いた。
「私、リビングで寝るよ」
「いいよ、こっちで寝なよ」
彼が強引に誘うので、高山さんも彼の部屋で寝ることになった。
「私、今日バイトで疲れてるし、明日も一限があるから、本当に寝るね」
「うん、わかった」
高山さんは本当に眠そうにしていたし、彼も寝ようかな、とは思っていた。
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