深夜コンビニバイトの後、新潟まで寝ずにドライブ

ピザ屋のバイトにも復帰し、親友の土岸に薦められて始めたコンビニのアルバイトで、小森谷くんは新たな友達を作る。その友達、岡本くんをめぐって、なぜか新潟まで深夜ドライブすることに!?
末期がんを宣告された男性の❝ありそうでなかった❞半生を描いた、『小森谷くんが決めたこと』を特別掲載!

 ピザの宅配アルバイトに復帰した彼は、高校生のときと同じように街中を駈け巡った。

 土岸はコンビニでアルバイトをしていた。夜勤をする土岸の元に、彼は何度か顔を出した。

「お兄さん、ソフトクリームください」

「あ? ガリガリ君にしとけよ」

「いや、ソフトクリームください」

 ぶつぶつ文句を言いながら、土岸がソフトクリームを作った。

 土岸が持つコーンの上にソフトクリームが巻き上がっていくのを、彼は興味深く見つめる。店には土岸と彼の他に人はいない。

「なあ、お前もここでバイトしろよ」

 椅子に座ってソフトクリームを舐めていると、雑誌の棚だしをする土岸に言われた。

「ああ。それもいいかもな」

 ソフトクリームをぺろぺろ舐めながら適当な返事をする彼は、その二日後にはこのコンビニの制服に袖を通すことになる。

 真面目で責任感のあるやつです、と、土岸が店長に話を通したらしい。

「モリ! なんでお前はそんなに適当なんだよ」

 当たり前だけど最初仕事ができなかった彼は、土岸から厳しくダメ出しされた。見返してやりたい一心で、彼はコンビニのアルバイトにものめり込んでいく。

 ピザ宅配とコンビニの掛け持ちで、もはや勉強やサークルに割く時間などなかった。

 節操も計画性も甲斐性もなにもなく、彼は“なるようになる日々”をナチュラルに楽しみ始めた。

「モリ、こいつ岡本」

 バイト先のコンビニで、新しい仲間ができた。岡本くんといって、土岸と同学年の大学生だ。

 土岸はすでに岡本くんの家に入り浸っていた。

 そこに彼が加わると、素敵なバカ三人組ができあがった。彼は大学にもあまり行かなかったが、自分の家にもあまり戻らなくなった。

 三人は岡本くんの部屋でゲームをして、オーナーに貰った廃棄処分の弁当を食べ、またゲームをした。

 コンビニの夜勤に三人のうち二人が入ると、残った一人は時給も出ないのに手伝いに行った。バカ三人組はいくつもの夜明けを一緒に迎える。

 土岸が目をつけただけあって、岡本くんはどこか変わっていた。

 高校時代は野球をやっていたらしく、見た目は真面目で一途な好青年だ。だが本当は自由人というか何というか、何にも縛られない風のような男だ。

「土岸ー、彼女紹介してくれよ」

「おお、いいよ」

 安請けあいする土岸だったが、次の日には本当に、社会人の女性を岡本くんに紹介した。

「モリ、おれら付きあうことになったよ」

 二日後、岡本くんと彼女がコンビニに遊びにきた。なかなかキレイな彼女だった。

 そのスピーディな展開に、彼は、むう、と唸る。彼女は岡本くんのことを大変気に入っている様子で、ずっとべたべたしている。

 夏が近付くと、岡本くんは単車に乗るようになった。彼にも経験があるが、バイクを手に入れると、ついつい遠くへ行ってしまいたくなる。

 しばらくコンビニのバイトを休み、新潟県の旅館で住み込みの短期バイトをする、と岡本くんは言った。

 そうなると付きあい始めたばかりの彼女とは会えなくなってしまうわけだが、岡本くんは風のような男だった。

 一緒にいてよ、という彼女の願いを振り切って、岡本くんはバイクで新潟へ行ってしまった。以来、向こうからは一切連絡がない。岡本くんは風になったのだ。

「会いたいんだけど、連絡も来ないし」

 土曜の夜、コンビニに出勤中の彼と土岸は、彼女から相談を受けた。

「かしこまりました」

 勤務中の土岸は、半笑いの敬語で答えた。

「こうなったら行くしかないですね、新潟に」

「新潟って、遠くない?」

 不安そうな彼女が、上目遣いで訊いた。

「いや、今から行きましょう。うちの実家の車をだします」

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余命2か月といわれた男—小森谷くんが決めたこと

中村航

僕、余命2ヶ月って言われたんですよ。でも、生き残っちゃいましたけど――。末期がんを宣告された30代男性の“ありそうでなかった”半生を、「100回泣くこと」の著者・中村航が小説化!

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