トラック炎上
取材中に驚きの知らせが入った。自警団のメンバーが銃の不法所持で警察に逮捕されたというのだ。「まさか!?」という思いと、「もしかしたら、それもありえるかも」という相反する思いが浮かんだ。いざ検察に向かい事情を聞こうとすると、厳重な警備が張り巡らされており、逮捕された自警団メンバーには接触できなかった。
その後、我々が接触していたヌエバ・イタリアの自警団から、潔白を証明するために行動を起こすかもしれないという連絡が入った。当時、検察のあるアパチンガンという街にいたのだが、詳しい話を聞くため、深夜になっていたが移動することにした。
自警団のいる場所へは車で1〜2時間ほどかかる。なぜこんな時間に移動したのかというと、検察で見た厳重な警備体制を考慮したのだ。もし翌日になって自警団の行動に警察が過剰に反応したら、我々は接触できなくなってしまう。
フリーウェイをひた走っていると、前方から〝逆走〟してくる車とすれ違った。
(おいおい……噓だろ)
何かが起きている。交通事故じゃない。十中八九、カルテル絡みだ。ジャーナリストとしての直感である。
「ここで止まらないで、そのまま行って!」
車内で叫ぶ。同乗者たちも同じ思いだったようで、車はスピードを上げた。しばらくすると、前方に赤い光が見えた。巨大な炎だった。火元となっているのは、対向車線を塞ぐように停車した巨大なトラックだ。
「燃えてる!」
叫ぶと同時に車から飛び出した。
不謹慎かもしれないが、この瞬間、私は自分がいま麻薬戦争の戦場のド真ん中に立っているような気がして、テンションが一気に突き抜けたのだった。スマホを取り出して燃え盛る炎の温度が感じられる距離まで近づき、何度もシャッターを押した。
「戻って!」
同行ディレクターの怒声が耳に入ってくるまで、撮影を続けていた。
乗ってきた車に戻ると、そこには頭を抱えている人物がいた。年齢は50〜60代。恰幅のいいメキシコ人男性だった。
「どうしたんですか?」
「あいつらがやりやがった! ここの住人たちを使って、俺に仕返しをしたんだ!」
興奮していて会話にならないが、どうやらみかじめ料などを払わなかった見せしめに、カルテルによって彼の車が燃やされたと言っているようだった。つまり、これはカルテルの敵対する人間への報復行為だというのだ。
煙を上げて燃えるトラック
「カルテルの連中は何か事件が起きると、それに乗じて行動を起こすことが多い。これもそのひとつだろう」
ダニエルの言葉に疑惑が確信に変わる。
カルテルは自警団に駆逐された、という前提が間違っていた。勢力を削がれたことは間違いないだろうが、ある程度の力を残したまま、地下に潜っていたのだ。そして自警団やその周辺の動きを注視していた。
一方、自警団は地元の人々にカルテルと同一視され、恐怖の対象となっていた。その背景には「許されし者」に主導権を奪われ、非合法な活動を展開していた自警団の存在がある。取材中にはわからなかったことだが、自警団のなかに「許されし者」だけではなく、現役のカルテルメンバーも加入していることは、すでに実感として確信している。
いったいなぜ元、あるいは現役のカルテルメンバーが自警団に参入したのか。そこには、ドラッグビジネスの利益第一主義がある。
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