たまに「巨乳ですよねー」と言われることがある。「いや、普通ですよ」と返すと、なぜか大抵「またまたー、ご謙遜をー!」などと言われる。「本当は他人が羨むほどの巨乳でありながら、わざと巨乳を隠すフリをしちゃってー!」「そんなにたっぷりあるんだから、気に病むことないじゃないですかー!」というニュアンスだ。
私の乳は一般乳である。根拠は、どこにでもある街の下着屋へ入って、どこにでもある下着を調達できるからだ。一般的な市販のブラジャーサイズの範疇におさまっていて、大きさや小ささを理由に取り寄せや特注やオーダーメイドをしたことがないゆえに、自分を「巨乳」とも「貧乳」とも思わない。真の巨乳たちが下着探しにどれだけ苦労しているかを多少なりとも知る身としては、山のあなたの空遠く高くそびえる乳たちのさしぐむ涙に畏敬の念を持って、「私ごときが巨乳を名乗るわけにはいかない」という心持ちでいる。
それでも、タートルネックを着れば「乳袋あざとい」と言われ、Vネックを着れば「谷間けしからん」と言われ、何も着ずにおればデブだ肉だと罵られ、神経をビンビンに尖らせた皆様から敵視されるとき、私の乳は私のものであるはずなのに、それに対してコンプレックスを抱く権利をよそから奪われたかのように感じてしまう。Aカップ以上Fカップ未満の範疇におさまる一般乳の私でさえこうなのだから、真の巨乳……たかが乳当て一つ買うのに品揃え豊富な専門店まで行かねばならぬ人たちの、精神的苦痛は計り知れない。