ビットコイン分裂騒動とは何だったのか?(前編)

緊急寄稿。話題のあのネタを特別に解説します! 
2017年夏、世間を騒がせた「ビットコイン分裂騒動」とは何だったのか。新しく登場した「ビットコインキャッシュ」と「ビットコイン」はどう違うのか。どっちを買ったほうがいいのか。今回は特別編として、言葉の定義だけでも頭がこんがらがってくる「ビットコイン分裂騒動」をできるだけわかりやすく説明してみます。

▼人気が出すぎて、処理速度が追いつかなくなってきた

 この連載では追ってご説明していきますが、ビットコインはマイニングによって承認されてはじめて取引が成立するため、取引量が増えると、個々の取引が承認されるまでの順番待ちの列が長くなって、取引が完了するまでに時間がかかってしまうという構造的な問題を抱えています。実際、今回の分裂騒動が起きる前は、本来なら10分程度で終わるはずのところが、1時間近くかかっていました。これではお店の決済には使えません。

 たとえば、レストランで食事をしたお客さんが代金の1万円をビットコインで支払ったとき、入金を確認するまで帰っちゃダメということになると、お客さんを何十分も足止めすることになってしまうからです。そこで、私たちのような決済サービスを提供している事業者は、お客さんから「1万円分のビットコインを送金します」という指示がきた時点で「届いた」ことにしてしまって(未承認の取引なので、実際にはまだビットコインは届いていない)、その時点で支払いが終了したことにしています。だから、お客さんは支払いが済んだらすぐに帰っても大丈夫なのです。

 ところが、実際には、取引が承認され、決済事業者の手許にビットコインが届くまでの数十分の間にも、ビットコイン価格は変動しているので、お客さんが支払った時点よりも価格が下がってしまうリスクがあります(たとえば1万円分のビットコインを受け取るはずが、届いたときには9900円分に目減りする)。しかし、逆に、お客さんが支払った時点よりも価格が上がることもあり(1万円分のビットコインを受け取るはずが、届いたときには1万1000円分に増える)、その間のリスクは手数料をいただいている事業者が負担しているということです。

 私たちのような決済事業者がいる意味はまさにそこにあります。間に事業者が入らず、お店とお客さんがビットコインを直接送金したとすると、取引が承認されるまで、お店はお客さんを帰すわけにはいかなくなります。食い逃げされる可能性を排除できないからです。

 このように、リアル店舗やオンラインショッピングの決済では、事業者がリスクをとることでお客さんを待たせるようなことはありませんが、一般の送金では、マイナーによる承認待ちの列に並ぶしかありません。そのため、取引が完了するまで何十分も待たされるということが起きていました。


▼スケーラビリティ問題の解決策をめぐる争い

 新たな投資先としてビットコインに注目が集まった結果、取引量は増加の一途をたどっています。このままでは処理が追いつかなくなってマズいというのは関係者の誰もが思っていることですが、増加する取引量にどう対応するか(これを「スケーラビリティ問題」と言います)で意見が割れ、おもに二つの勢力が「自分たちのやり方こそ正しい」と主導権争いを繰り広げてきました。

 一つは、ブロックに入れるデータ量を圧縮しようという勢力で、こちらはビットコインの初期から開発に携わってきたコア・デベロッパーが主導しています。ブロックに格納される個々の取引(トランザクション)のうち電子署名(Witness)部分を切り離そう(Segregate)ということで、このやり方を「セグウィット(SegWit)」と呼んでいます。

 セグウィットを有効にすると、取引データは約6割圧縮されるとされていて、従来1MBが上限だったブロックにおよそ1.7MB分の取引データが格納できるのではないかと言われています。セグウィットを有効にするには、承認作業を行う一定以上の割合のマイナーの賛成が必要ですが(提案内容によって必要な賛成票は95%以上だったり、80%以上だったりします)、なかなか賛成票が集まらず、宙ぶらりんの状態が続いていました。

 もう一つは、現在1MBのブロックのサイズそのものを2倍、4倍……に大きくしようという勢力で、セグウィット有効化に異を唱えるマイナーが中心になっています。サイズが大きくなればそれだけ一つのブロックに多くの取引記録を格納できますから、スケーラビリティ問題は解消される一方、処理するのに必要なマシンパワーがいままで以上に必要になり、ただでさえ中国に偏りがちなマイニングプール(マイニングを行う業者)がさらに中国に一極集中することが懸念されています。

 話をわかりやすくするためにこの両者を単純化すると、ビットコインの立ち上げ期から関わってきたコアデベロッパーは、国や企業の管理を嫌って通貨の脱中央集権化を進めるラディカルな人たちで、「民主的な通貨」の理想を追求するゴリゴリの原理主義者です。彼らはお金儲けよりも、ビットコインのアーキテクチャをよくしたい。一方、マイニングレースによって獲得報酬を競い合うマイナーはあくまで経済合理性を追求する人たちで、理想は脇においといて、儲かるかどうかがすべてです。だから、自分たちが最も低コストで最も儲かる方法の実現を目指しています。


▼理想を追求するコアデベロッパー vs 経済合理性を追求するマイナー

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いまさら聞けない ビットコインとブロックチェーン

大塚 雄介
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017-03-24

この連載について

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いまさら聞けない ビットコインとブロックチェーン

大塚 雄介

cakes読者のみなさん、はじめまして。大塚雄介です。ふだんは、仮想通貨交換取引所「coincheck」や、ビットコイン決済サービス「coincheck payment」を運営しています。ところで、最近ネットなどのニュースでビットコイ...もっと読む

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tanayuki 本を読んでからこの記事を読むと、いま起きていることが手に取るようにわかるはず! 3ヶ月前 replyretweetfavorite