子どもがいると転職しづらい?
山本一郎(以下、山本) みなさま今日はお集まりいただきありがとうございました。今日はみなさんで子育てをテーマに幅広くお話しできたらと思います。これだけのメンバーでなぜ子育て? という向きもあるかもしれません。しかし、今の日本の閉塞感の原因は、まさにここにあるんではないかと思うんですよね。第一線で活躍されているみなさんで、子育てについて率直に話し合うことで、今子どもを作ろうかとか、結婚しようかとか悩んでいる人たちのヒントみたいなものを提示できればと思います。
では、まずはみなさんの「お子様の」プロフィールから教えてください。
クロサカタツヤ(以下、クロサカ) 僕のところは女の子がふたりで、それぞれ5歳と2歳です。
田端信太郎(以下、田端) 僕は上が男で3歳10ヶ月、下が女で10ヶ月です。
中村仁(以下、中村) 僕はひとりで2歳半の男です。
山本 そして私が男ふたりで上が3歳半、下が2歳です。そして今3人目が……。
クロサカ・田端・中村 ええ、そうなんですか(笑)。おめでとうございます!
山本 量産体制です。
中村 野球のナインができちゃいますね(笑)。
山本 内野を山本家で占めようと(笑)。私は少なくとも5人は子どもをつくろうと考えていたので、順調ですね。
それでは、そろそろ本題に入っていきますけれども、最初に私が一番言いたかったのが、子どもを抱えて独立、子どもを抱えてフリーランス、子どもを抱えて転職といった場合に、人によっては、子どもがいるので転職できない、職場を変えづらい、キャリアアップに対して内向きになるというケースが多いような気がしているんです。確かに、自分の力で仕事を得ているなら、子どもや奥さんがいることはそんなに障害にならないという人もいます。しかし、転職できない人でも、自分の仕事には自信があっても、家族の存在があるから転職できないというのは、なかなか言いづらいことでもある。言い訳になっちゃいますから。
中村 わかります。
山本 そこで気になるのですが、田端さんがコンデナスト・ジャパンからLivedoor(現LINE)に戻られたのには、何か理由があったんですか? コンデナストでは凄く楽しそうに仕事されていたじゃないですか。
田端 そうですね。とくに不満があったわけではないんです。
山本 より楽しい方向に行ったということですか?
田端 そうですね。僕は家族がいるから、子どもがいるから躊躇したとか、そういう発想は一切なかったですね。時間のやり繰りをどうしようかとは思いましたけど。
山本 私の会社に面接に来る方が、転職活動を家族に反対されていた、ということをおっしゃるんです。本当は自分自身のキャリアを上にもっていきたいと思いながら、チャンスを流しちゃう人が40歳前後に多い気がします。それくらいの年になるとだいたい自分のキャリアが見えていて、もし上に向かって今のスキルで転職するとなると、もう最後のチャンスじゃないですか。その次は転職はもうマネジメントスキルの問題になってしまうんですよね。
家庭内における女性の強さ
山本 クロサカさんも結婚後に転職されてますよね?
クロサカ 僕は家族のことを意識しなかったと言うよりも、むしろ逆なんです。前の会社が三菱総研というところで、今はわかりませんが、当時はクオリティ・オブ・ライフが破綻している会社だったんですよ。さすがにいまはそんなことを聞いていないと思いますが、面接時に「どれくらい徹夜できる?」と聞かれました。精神的には強いつもりだったんですけど、さすがに自分がやばくなる寸前だと感じるようになって、どうしようと思っていたんです。そのとき妻から言われたのが、そんなんだったら辞めたら、と。あとから聞いたら、あのまま潰れて寝込まれるよりは、自分のやりたいことをやっていた方が、失敗してもマシだと思ったということでした。
山本 奥さんが背中を押したんですね。クロサカ家は奥さんが強いイメージがあるんですが。
クロサカ 強いです。だから今日もドキドキしています(笑)。そもそもこのやりとりを原稿から割愛してもらった方がいいような……。
山本 私も家内にはあまり逆らえませんです。子育てが大変なんで、その大変な状態を分かち合って初めて夫婦間の絆を感じるタイプですかね。
クロサカさんは仕事で結構海外に行かれていますよね。奥さんは大変だと思うんですが、ベビーシッターなどは雇っていますか?
クロサカ 雇っていないです。ただ、妻の実家が近くなんですよ。だから妻の実家にサポートしてもらって、かなりわがままさせてもらっています。
山本 クロサカさんのところは女の子ふたりですよね。女の子は男の子よりは子育てが楽だという話もありますが。
クロサカ そうですね。話を聞いていると、男の子に比べたらたぶん楽ですね。
山本 うちは戦場ですよ。両方お昼寝していても、どっちかが起きるともう一人を起こすし。
中村 親がやってほしいことの反対のことをするんですよね。
山本 特に下の子が言うことを聞かないです。最近、前に軸足を踏み出してものを投げると遠くに飛ぶことを覚えて。
中村 本格派じゃないですか(笑)。
クロサカ 5歳の上のほうはすっかりお姉ちゃんになっちゃって。しっかりしているんですよ。そして僕が遅くに帰ると、女性陣全員に怒られる。3対1なんで、ホームなのにアウェー(笑)。「何時だと思ってるの!」って、早くも「女」なんです。女になるんじゃなくて最初から女なんです。
田端 男だと自分を投影してしまいますね。娘だと異性だから、突き放せるし、逆に可愛くもある。男だと軟弱だなとかすぐに思ってしまう。
悩ましき学校問題
山本 学校についてはどう考えていますか? 私は最初、ロシアの幼稚園に子どもを通わせようとしていたんです。でも日本人の常識からすると、教育内容がびっくりするくらいひどくて(笑)。さすがにこれは厳しいという話になり、慌てて自分の住んでいる区の幼稚園を探したんですけれども、全く空きがないんです。どこも満員。いっそのこと、別の区にセカンドハウスを用意して、区立の幼稚園に通わせるか悩んでいました。
クロサカ でもそうなっちゃいますよね。セカンドハウスまで作るのは難しいけれど、幼稚園をどこに通わせるかはとても重要です。うちは逆にタイミングよく入れちゃったので、もう動けないです。
中村 うちは結構軽く考えちゃってるなあ。
山本 小学校受験をできるような幼稚園に入れるべきか、ですよね。
中村 それを考えて今から幼稚園選びをしないといけないですよね。
田端 僕は地方で高校まで公立で来てるので、お受験文化が自分のこととしてわからないんですよね。否定もできないし。
山本 東京に居を構えようと思ったとき、金銭面を考えれば都立大学の付属から東大を目指すケースもあると思うんです。私立は通う子や家庭の価値観のベースが似ているから、楽といえば楽だけれども、どっちが有利なのか。私立だと、親の職業がヒエラルキーになっていて、子どもにまで影響する場合もあるらしいですし。
田端 自分のことじゃないから余計に難しいですね。
山本 いつの時代も、幼少期の教育は親の責任じゃないですか。小・中学校くらいに上がれば子ども、自身の責任と考えていいと思うんですが。
中村 進路はどこの中学校に行っているかにもよりますもんね。
山本 むしろ公立のほうが楽なんじゃないかと思うときもあります。
クロサカ 東京の公立はとくにピンきりらしいですけども。学校によって全然違う。
中村 うちのいとこの子なんて、お兄ちゃんの学校のほうは全学年で5人とかでついに廃校になるらしく、弟のほうは、すごい多いらしいんです。
山本 区によっても全然設備の充実度も違いますからね。うちの学区からいける小学校は東京の真ん中なんですけれども、かなり微妙な家庭の子も多いので大変ですよと近所で噂になってたり。
クロサカ いわゆるダイバーシティ(やまもと註:多様性のこと。上から下まで、いろんな家庭の子がいるよね)なのが公立の魅力だというのは頭ではわかるんだけれども、いざ通わせている方のお話を聞くと、価値観がバラバラすぎて通わせづらいというのはありますよね。
田端 ダイバーシティってポリティカル・コレクトネスな言い方ですね(笑)。
中村 何気ない一言が差別につながったりしますからね。
田端 共通言語の世界に入っちゃいますもんね。
山本 うちの子は最初幼稚園が遠くて、バスに乗って行こうと思っていたんですけれども、地元の子どもと遊べないというのが辛くて。できれば地域の子どもと一緒に友達の家に遊びにいったりしてほしいと思いまして、幼稚園の近くにセカンドハウスを用意して引っ越しました。
中村 ああ、確かに。僕は幼稚園から私立なので、僕は地域の子と遊んだ経験がないんですよ。
田端 私立ってそういう側面もあるんだね。
中村 だから、地元の子どもに絡まれたり、結構ありましたよ。「なんだお前」って。そのせいで地元の子どもと友達になったことがないんです。
山本 私、「なんだお前」って言った記憶がありますもん。
クロサカ・田端・中村 あはは。
(後編は4月16日更新予定)


1969年生まれ。東京都出身。1992年立教大学卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。広告代理店に転職後、独立。フリーランスのマーケターとして仕事を手がけた後、2000年に西麻布に「居酒屋せいざん」を開店。株式会社グレイスを設立し、現在は港区を中心に「豚組」「壌・泡組」など、個性的な飲食店を運営中。株式会社FrogAppsを設立し、お料理写真共有アプリ「miil」を運営。著書に『小さなお店のツイッター繁盛論 お客様との絆を生む140文字の力』(日本実業出版社)。
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1975年生まれ。クロサカタツヤ事務所代表、株式会社企(くわだて)代表取締役。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所を経て2007年に独立。現在は戦略立案や資本調達に関するコンサルティング、政府系プロジェクトの支援などに携わる。
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