藤田貴大
鼻水たらして、ずびずび。
―性交みたいなことはできるのに?―
【第17回】 ここまでできる人なら、本当に「愛している」と言える。そんなラインを考えたことがあるだろうか。性交より尊くて、物語がつまっていて、未来もある!? それって、いったい何? さ、気になる方は、演劇作家独自の見解を、どうぞお楽しみください。
さいきん、鼻水に取り憑かれている気がする。いや、ぼくは一滴も鼻水をたらしていない。ぼくの鼻腔はすこぶる健康。たらしているのはまわりの女子たちだ。やたらと鼻水をずびずびするのだ。風邪が流行っているのか、なんなのか。演出という職業柄、女優さんをよく泣かすのだが、泣かせば泣かすほど、ずびずびがきこえる。とにかく、原因はなんであれ、なんというかさいきん、鼻水に取り憑かれている気がする。 こんなにも、いつもよりもさいきんは、あらゆるところから聞こえてくる。ずびずびが耳の奥にこびりつき離れない。頻繁に目につくそれに、敏感になったぼくは、鼻水女子という獲物に目を光らせる。音が聞こえた方向をキッと睨む。そして、気がついたのだ。これは、いま特別、鼻水に取り憑かれているわけではない。そう、ぼくは鼻水をたらしている女子をこよなく愛している。
おもえば、ぼくのなかであるラインがあった。そうだ、思い出した。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。