藤田貴大
湘南新宿ラインでの化粧。
―彼女を見ない選択なんて―
【第19回】 どうってことではないのかもしれない。賛否はあるのかもしれない。が、演劇作家としては、その仕草に見とれてしまうしかない。朝。車窓なんか、そっちのけで。彼女のショーは始まる。だから、脳内は彼女のことでいっぱいなのだった。
湘南新宿ラインに乗っているとよく目にすることなのだけれど。朝の、すこし通勤ラッシュが収まってきたころに、ぼくはいつも新宿から乗るのだが。渋谷あたりを越えたくらいで、それまでたぶん「すっぴん」に近いかんじだとおもっていた女性が、突然。化粧を始める。普段、ぼくは横浜で舞台稽古をしているから、湘南新宿ラインはかなり利用するのだけれど、たしかに武蔵小杉を越えたあたりの横浜へ向かっていく車窓の外の景色も、なんとも言えないかんじで好きといえば、好き。だけれど、湘南新宿ラインの魅力、というか醍醐味は景色じゃなくて、この光景だとおもうのだ。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。