ネットでマネタイズできる時代に、本を出版した理由

発売後、ビジネスパーソンの間で話題沸騰となっている『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP社)。「決算」に詰まったビジネス思考のヒントをひもとくこの書籍は、実はnoteの人気コンテンツ「決算が読めるようになるノート」を再構成してまとめたものです。「本を出すことに興味なかった」と語る著者のシバタナオキさんが、考えを変えた理由とは? ピースオブケイクCEO加藤貞顕との対談を全3回でお届けします。

Facebookで告知したら部数が増えた

加藤貞顕(以下、加藤) このたびは『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』刊行おめでとうございます! すでにかなり話題になってますけど。


決算書を読む習慣(日経BP)

シバタナオキ(以下、シバタ) 初版の部数は結構控えめだったんですけれど、ぼくがFacebookで告知してからの反響がすごくて、発売前に3万部まで増刷になったんです。

加藤 おお。ますますすごい!

シバタ いやいや。ちゃんと売っていかないといけないからたいへんですよ。ぼくはネットは土地勘があるのでAmazonでの反応はある程度わかりますが、書店でどれくらい売れるのかがまだわからないですね。

加藤 本の売れ方というのも株価とちょっと似ているところがあって、PER(※1)20倍から40倍に跳ねるときと、そこからさらに60倍に跳ねるときがあるんですよね。つまり、売れ方のレンジががらっとかわる瞬間がある。ぼくの感覚だと、『MBAより~』は今、PER40のレンジまでは来ていて、ここから一気に伸びていくところなんじゃないかと思います。
※1 株価収益率(Price Earnings Ratio)。時価総額÷純利益で算出され、PERが低いほど株価が割安とされる。

シバタ なるほど。一応10万部を目指しましょう、ということに何となくなっています。ぼくは本のマーケティングは素人なので、「10万部なんて本当にいけるんですか?」と思っていたのですが。

加藤 この感じは、いけるんじゃないですか。とはいえ、こんなこと言ったらなんですが、この濃い内容で10万部売れたら本当にすごいことですよ。結構ハードコアな内容をまとめてますもんね。一冊を通して本当にがっちり、決算に関係する教養が身につくようになっている。

シバタ ハードコアです(笑)。いやいや、ハードコアなんですけど、タイトルの通りMBAと英語と同じくらい大事な分野だと思ってますので。

加藤 たしかにこの内容、MBAとったり英語を学んだりするよりも、お金を稼げるようになるかもしれない。

シバタ ありがとうございます。

楽天で身につけた、「決算を読む習慣」

加藤 シバタさんは現在、アメリカのシリコンバレーでスタートアップ企業を経営されています。決算を読む習慣が身についたのは、2006年~2009年に在籍していた楽天での「全社朝会」がきっかけだったとか。

シバタ はい。本にも書きましたが、「毎週2分半、社員の前で業界トピックスを話すからネタを集めてくれ」と上から言われまして。1万人以上の社員の貴重な時間をもらい、そして役員が話すのにも価値があるテーマを考えた結果、競合他社の決算発表やM&A(企業買収)情報をピックアップして簡単な分析結果を提出することにしたんですね。

加藤 それ、かんたんにおっしゃいましたけど、かなりたいへんなんじゃないですか?

シバタ いや、ほんとにたいへんなんですよ。そのころは毎週つらくてつらくて(笑)。でも、そうやって毎週決算を読んでいるうちに、趣味で決算書を読むまでになりました。

加藤 noteで「決算が読めるようになるノート」として連載するようになったのが、2016年1月。最初は日本語のリハビリを兼ねて始めたと聞きました。

シバタ そうですね、アメリカに来て7年ぐらいなんですけど、仕事で日本語を使わないので、日本語力がどんどん衰えていくのが手にとるようにわかるんですよ。ぼくは日本で論文を書いていた時代もあり、日本語でのライティングにもそれなりに自信があったので、このスキルを何とか維持したいなと思ったんです。

加藤 決算書を見ること自体は、アメリカでもずっと続けていた?

シバタ はい。もう楽天のときの習慣がずっとしみついてまして。ほとんど体に染みついていて、決算期になると必ず主要な会社の決算書を見てしまう。ぼくの今の事業とは何も関係もないのに(笑)。

加藤 どこの会社の決算がいつぐらいに出るかというのも、だいたいわかっているんですか?

シバタ そうですね。アメリカはクォーター(四半期)で締まって、大きいところは30日以内には決算を出し始めますし、日本でも早くて30日、遅くて45日以内には全部出ます。主要なところは全部読む癖がついてますね。これは朝起きて日経新聞を読むくらいの感覚なんです。

加藤 なるほど。読んで何かにまとめるということも、楽天以降も続けていたんですか?

シバタ いや、ほとんどは読むだけでしたね。でもnoteを始める前に、Facebookで決算のサマリーを書いていた時期があって、それにすごく「いいね!」がついたんですよ。それで「これならいけるかな」とnoteに移行した経緯があります。

加藤 さすが。スモールスタートで、マーケティングしたわけですね。

シバタ ぼくはビビリなので、ギャンブルができないんです(笑)。

「本って、出す必要あります?」

加藤 シバタさんのnoteは月額の継続課金マガジンですが、ものすごい勢いで人気コンテンツになっていきました。以前お話しした時に、「出版のオファーがかなり来ている」と言ってましたよね。「本って、出す必要ありますか?」と聞かれたのを覚えています。

シバタ お聞きしましたね(笑)。

加藤 ぼくからは「どちらでもいいと思いますが、出すからには結構手間がかかりますよ」という話をしました。

シバタ そうそう。本を出すことに、全然興味なかったんです。もっと言うと、経済的な面から考えると全然ペイしないと思っていた。

加藤 ぼくの立場からはいいにくいんですが(笑)、シバタさんのようにネットでビジネスがしっかりまわっていると、そうですよね。

シバタ 書籍を出して手に入る印税って、だいたい価格の10パーセント程度じゃないですか。それに対して、noteの継続課金マガジンでは約75パーセントのリターンがある。noteで「決算が読めるようになるノート」を多くの方に購読いただいているぼくの場合、よほどの大ヒットでないなら、本を出す意味がないですよね。
 だから最初はあまり興味がなかったんですけど、一方で、あるコンテンツを広く認知させたいときに、本というフォーマットはまだまだ強い。それで今回の担当編集者にもはっきり「noteの販促のためなら本を出したいです」というお話をして、出版に至りました。これを言うと出版社に怒られるかもしれませんが、本は「試供品」のような位置づけです。

加藤 それ、画期的な動機ですよ(笑)。

シバタ 本だと誰が買ってるかわからないですけれど、noteだと読み手のフィードバックも直接いただけるじゃないですか。今後さらにいろいろやっていくうえでも、自身のコンテンツをユーザーに直接届けていくのが大切だと思っています。なので今も、noteをどう広げていくかを第一に考えているんです。

数字を覚えておくと、頭の中でビジネスモデルがつくれる

加藤 書籍は、書き下ろしはどれくらいあるんですか?

シバタ 各章の1節は全部あたらしく書いてますね。2節以降はnoteの内容を整理して再構成したものです。それと「はじめに」と「おわりに」ですね。noteの記事をそのまま入れるとボリュームが多すぎると言われて、結構削ったところもあります。
 これは編集者がやってくれたのですが、これまでのnoteをビジネスモデルごとに再構成してあるので、まとめ読みには最適な形になっていると思います。

加藤 ぼくがすごくおもしろいと思ったのは、テレビのARPMAU(視聴者一人あたりの月間売上)の話です。こういう指標ってネットサービスではよく使われますが、テレビもネットサービスも同じ広告ビジネスとしてフラットに見て数字を比較するというのは、新鮮です。

シバタ ざっくりした試算ではあるんですけどね。まず「テレビのARPU(視聴者あたりの売上)はどんどん下がっているのではないか?」という予測がまずあったんです。

加藤 ほうほう。

シバタ というのは、ソーシャルゲームという、自社のサービスのARPUを厳密に計測している人たちがテレビCMを利用してますよね。彼らは昔は高くて買えなかったのに、今は買えているということは、スマホの市場のほうがボリュームが出てきてるという推測が成り立ちます。

加藤 なるほど。そういうふうに目をつけて、そして決算から実際のところを読み解くわけなんですね。

シバタ はい。全部、出てるんですよ。

加藤 それと、「いろんな数字を覚えておこう」というのもすごく有効なアドバイスだと思いました。たとえば、ECビジネスのテイクレート(粗利)がアメリカだとだいたい10パーセントで、日本は7パーセントとか、ビジネスに役立ちそうな数字やその求め方がたくさん書いてある。今って、ネットのおかげで知識を覚えることがあまり重視されてないんだけど、やっぱりそういう数字って、ビジネスのキモ中のキモじゃないですか。

シバタ そのとおりですね。

加藤  読んでいて「あー、これ覚えておきたいな」という数字がたくさん出てきました。

シバタ 大事なのは、こういう数字ってそうそう変わらないんですよ。たとえばECのテイクレートは向こう10年、これくらいでしょう。もしマーケットプレイス系のスタートアップを始めようということになれば、主要な他社のテイクレートをちょっと知っているだけで、基本的なビジネスモデルは頭の中でパッとつくれちゃうんです。そういうものは覚えちゃったほうがラクでしょうね。

加藤 こういうビジネスの基礎的な数字って、シバタさんの頭の中にたくさん入っているんですか? それとも調べながら書いている?

シバタ 全部ではないですけど、わりと頭に入ってますね。大学で経営の勉強をしていたり、楽天時代にたくさんの種類のビジネスの現場を見せていただいた経験があって、そういう数字を頭に入れておかないと落ち着かないんですよね。若干、職業病かも(笑)。

加藤 「決算を読む」という言葉、すごく良いですよね。ビジネスを理解するためのデータや材料が実は決算のなかにあるから、決算を読めばビジネスがわかるという。
 そして書籍というフォーマットになったことで、ストックとしての価値が高まったのも良いと思います。ぼくもnoteで連載しているときから購読してますけど、本であらためて読んでも、また気づきがありました。

シバタ そうですね。noteのいいところはその時々のライブ感なんですけれど、フロー的な面もある。両方読むとより深く、決算についてのリテラシーが高まるようになっていると思います。

構成:平松梨沙

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

この連載について

MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』刊行記念対談

シバタナオキ

発売後、ビジネスパーソンの間で話題沸騰となっている『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』(日経BP社)。「決算」に詰まったビジネス思考のヒントをひもとくこの書籍は、実はnoteの人気コンテンツ「決算が読めるようになるノート」...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

YuyaTakegawa ピースオブケイク加藤さんとの対談! > 2年以上前 replyretweetfavorite

tal9 「noteの販促のためなら本を出したいです」というお話をして、出版に至りました。これを言うと出版社に怒られるかもしれませんが、本は「試供品」のような位置づけです。[インタビュー] 2年以上前 replyretweetfavorite

ykubotageruge https://t.co/eg5LK6Fcax 2年以上前 replyretweetfavorite

sadaaki 著書がバカ売れしている、シバタナオキさんに話をうかがってます。シバタさん、いろいろぶっちゃけておられります。 2年以上前 replyretweetfavorite