「こっちの方が燃費もいいし、値段も手頃だからいいと思うんだよね」
横浜郊外にある中古車販売店に来て、池崎は車の内部を確かめていた。それまで遠出をするというといつもレンタカーか電車だったので、池崎がそろそろマイカーがほしいと言い出し、中古車を二人で一緒に見に来たのだった。
車に対するこだわりをほとんど持ち合わせない一般的な女性のひとりであるユウカにとって、中古車という選択肢は特段気にならなかった。池崎がローンを組んで乗る車だから、池崎の好きな車を選べばよいと遠目から池崎を眺めていた。
「ユウカさん、どう思います〜?」
池崎はひんぱんにユウカに意見を求めてくる。
結婚の話題さえ出なければ、池崎は今まで通りユウカに従順で、愛くるしい存在なのだ。ユウカは、一通りいろんな車を眺めていくなかで、ひとつ気になった車があったので、池崎に聞いてみることにした。
「池崎、ああいう車はどうなの?」
ユウカが指差した先には、いわゆる白いワンボックスカーがあった。
「ん? ヴェルファイアですか? 高いですよ」
「でも、いいじゃん。車の中も広そうだし、7〜8人乗れそうだよ。将来を考えたら、安いんじゃない?」
「そんなにたくさん乗らないし、必要ないですよ。それより、小回り利いて気軽に乗れた方がいいと思いますよ。ユウカさんも運転しやすいでしょう」
「……うん」
いろいろと言いたいこともあったが、池崎が買うんだし、池崎の好きな車を選ぶのが一番いいと思って、それ以上は何も言わなかった。結婚してたら言えたのに、なんだかもどかしい……。
*******************
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。