吉本の先輩達に言われた、あんなことやこんなこと。

執念で獲得したレッドカーペット賞。「これで一人の仕事も増えて、相方との立場も逆転!」と意気込み、エロ詩吟の大ブームもあって東京進出を果たす天津。ところが、そこで待ち構えていたのは、恐ろしいほどの暇な日々でした。相方への憎しみだけが高まる天津・向清太朗さんをいろいろな芸人の先輩が飲みに連れ出し、いろいろな話をしてくれます。芸人同士、酒の席ではどんな話をしているのか? 今回は、その一例に触れることが出来ます。



東京進出失敗


 運が良いことに、いろんな芸人が浮き沈みするレッドカーペットの中でもエロ詩吟は人気を保っていました(当然、その時の僕には喜ぶ気持ちはありませんでしたが)。その勢いに任せて天津は東京に活動拠点を移します。2009年の夏です。

 しかし東京に出てくるにあたり、僕らは大きなミスをしてしまいました。

テレビやラジオの仕事以外にも、吉本芸人にとっては“劇場出番”が大事です。吉本は、東京にルミネtheよしもとやヨシモト∞ホール、神保町花月、千葉にはよしもと幕張イオンモール劇場、埼玉には大宮ラクーンよしもと劇場と、関東に5つの劇場を持っています。その劇場出番は芸人としてネタを試す場所であると同時に、給与面でもバカにできない仕事なのです。

 通常、3ヶ月前には東京の劇場に「東京行きますのでよろしくお願いします」と言っておいて、そこから組まれる劇場の出番に入れてもらうのですが、僕らはそのシステムを知らなかったのです。そのため、東京に来てから「東京に進出しました。出番よろしくお願いします」と言いにいったのです。

「へー。いつから引っ越してくるの?」

「あ、もう引っ越してきてます」

「遅いな!」

「引っ越してくるのがですか?」

「いやそこじゃない! 劇場に言ってくるのが遅いんだよ!」

 この時、僕らは何をツッコまれたのか全く分からなかったんです。

 そのミスのせいで、東京に出て来てすぐにとんでもなく暇な時期が訪れます。ブームに乗じて満を持してやってきた東京。それなのに思惑とは違う形で訪れる、何もない時間。木村くんはその時も一人の仕事がたくさんありましたが、僕は全くもって暇でした。


 正直僕は、レッドカーペットでMVPを取った時に、自分一人の仕事が増えると考えていました。木村くんに追いつける、そして追い越して「ほれ見たことか」と言えるんだと疑いませんでした。が、世の中そんなに甘くありません。いや、少しは一人での仕事が増えたのは事実ですが、僕がレッドカーペットでネタとして提示したのは『女性のデータを覚える』というものなので、何かの収録など入るとしても、共演者のデータを覚えてくださいというオファーになります。仕事を引き受けたからにはと、なんとか言われたタレントさんのデータを覚えて臨むのですが、もともと愛がない人のデータは頭に入りにくく、収録自体がとんでもなくハネる面白さになったことはありませんでした。

 データを覚えるという僕一人の仕事も、徐々に減ってきてました。それは当然です。


そういう背景もあり、エロ詩吟ブームの時に、僕は12連休をむかえました。しかもまだ土地勘などが全くない東京です。その休みの時に「このままではダメだ、外に出よう」と、明治神宮に何回も行ったのを覚えています。神頼みではないけど、とにかく何かをかき消すかのような気持ちでそうしてました。

 なんとか12連休を乗り切ってからの仕事も、大阪にいた時に入っていた大阪での仕事。大阪に行って、仕事をしてその日のうちに東京に帰り、5連休。そしてまた大阪で仕事があり、東京に戻って一つだけ仕事をして、また大阪で3連勤。


 僕は何をしに東京に来たんだろう?

 東京に来たのは間違いだったんだろうか?


 木村くんへの怒りより、ただただその疑問が頭をよぎっていました。


 いろんな先輩方のお話を聞いて


 そんな時、大阪での仕事終わりに、お世話になっていた構成作家さんに飲みに連れてってもらいました。「最近どう?」と聞かれ、こちらの現状などを喋らせてもらったりしている中で、木村くんへの怒りを話しました。僕は誇らしげに、その憎悪のおかげでレッドカーペット賞も取れたという話もしました。でも、それで今の流れを変えることが出来なかった話はしませんでした。それは自分にとってマイナスだったからです。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

すべての“俺こんなはずじゃない”世代に捧げる秘訣を学んで、狙え人生一発大逆転!!

この連載について

初回を読む
ただのオタクで売れてない芸人で借金300万円あった僕が、年収800万円になった件

向清太朗

かつて一世を風靡した「あると思います!」のエロ詩吟でおなじみ、天津・木村“じゃない方芸人“の天津・向清太朗。世間では【売れてない芸人】と思われている彼の年収は、800万円です。テレビで見ることは、ほとんどない。昔、大ウケしたネタがある...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

Imaha486 正直、天津向のグイグイ前に出まくるスタンスは尊敬の念しかない 3年弱前 replyretweetfavorite

24yan_nishi80  870万さんの文章の展開力はすごいなぁと思うから、指折れない 3年弱前 replyretweetfavorite

notei ”通常、3ヶ月前には東京の劇場に「東京行きますのでよろしくお願いします」と言っておいて、そこから組まれる劇場の出番に入れてもらうのですが、僕らはそのシステムを知らなかった” 3年弱前 replyretweetfavorite

gusuko_midori 出てくる芸人さん達の声で脳内再生余裕w芸に真摯だなあ。→ 3年弱前 replyretweetfavorite