出会いは吹奏楽
平岩紙(以下、平岩) あっこちゃんと会うのっていつぶりやろう? 源ちゃんのレコーディング ※ 以来かな。
※星野源「恋」のカップリング曲「Continues」のコーラスにふたりは参加
福岡晃子(以下、福岡) 去年の夏だったから、1年経ってないくらいか。紙ちゃんとは1年に1回、会うか会わないかだけど、(共通の)友達のインスタに紙ちゃんが出てるのを見ると「元気なんやな」って思う。
平岩 私も、テレビとかでチャットモンチーが流れてくるのを聞くと、「あっ、がんばってる。元気そう」って思う。だから、あんまり会ってない感じはしないよね。
福岡 紙ちゃんと一番最初の出会いは吹奏楽やったよなあ。私はベースで、紙ちゃんはホルンで。
平岩 そうやった。2008年か2009年頃かな。友達の結婚式で余興をやることになって、私が「吹奏楽やりたい」って10人ぐらいで練習してたんやけど、「重低音が足りん」ってことになって、友達があっこちゃんを連れてきてくれて。
福岡 アパレルの段ボールが集まった倉庫みたいなところで、週2で集まって練習して。「やりたいんです!」っていう意志がすごくて、「これ、バンドにしてもいけんちゃうかな?」って思ったもん。モデルさんもいたりして、見てくれの迫力が半端なかったな。かっこよかった。
平岩 おもしろかったなあ。
役者だけは準備がいらなかった
福岡 紙ちゃんは、なんで女優さんになったんだっけ?
平岩 勉強がめっちゃ嫌いやったから、高3の三者面談で進路の話をするときに、どうしよー?と思って。オーケストラに入りたいって漠然と思ってたんだけど、音大に入るには準備が足りないし、ピアノも弾けないし……。
考えてみたら、お母さんが芝居好きで、けっこう観に行ったりしてたから、「ちょっと役者やってみようかなあ」と思って。三者面談の前日にお母さんに言ったら、めっちゃ怒られると思ったのに「じゃあ、東京出ぇや」って言われて。先生からも、「ちょっとやってみるか?」って。
福岡 へえー。
平岩 それで、戦後からある古い演劇の学校(舞台芸術学院)に行ったの。あとで聞いたら、お母さんが昔行きたかった学校だったらしくて。
福岡 すごいね。
平岩 役者だけは準備がいらんかった。
福岡 学校ではどんなことやるの?
平岩 演技、バレエ、日舞、狂言、話法、体操、殺陣を一通り習って、座学で日本演劇史、世界演劇史。小学校の授業みたいにスケジュールが組まれてるの。
福岡 俳優さんって、「そんなすぐ乗れる?」って思うぐらい馬乗れたりするもんな。学校で習ってんのかな?
平岩 お芝居の学校に行ってない人もたくさんいると思う。
福岡 じゃあ、バンドと一緒か。バンドも専門学校とか音大に行ってる人と、全然行ってない人がいるんだけど、7:3ぐらいで行ってない人のほうが多いかも。
平岩 なんとなく、行ってないほうがかっこいいイメージがある(笑)。
福岡 まあ行かなくてもやれる人はやれるな。でも、学校に行って結果バンドマンにならんかったとしても、ちゃんと裏方になる人もおるから。それはそれでいいことやんか。
平岩 そやな。演劇の学校に行って裏方になる人もいるし、一緒かもな。あっこちゃんは学校行ってた?
福岡 音楽の学校には行ってない。教育大学に行ってて、専門が「中学校の家庭科」だったの(笑)。学校の先生になろうと思って。
平岩 へえー、すごいな! 初めて聞いた!
福岡 だけど、高3のときにはチャットモンチー ※ に入っていたし、ボーカルのえっちゃん(橋本絵莉子)が、超プロ志向だったわけ。「絶対に音楽で食っていく」という揺るがない意志があったから、私も大学とか行ってたらあかんと思って、大学2年生ぐらいから辞める方向で考えてて。ただ、大学辞めるのは親が許してくれなかったから、大学行きながら、大学3年の終わりにデビューしたの。
※チャットモンチー:2000年結成、2005年メジャーデビュー。福岡晃子は、2002年加入。
平岩 大学は音楽活動してよかったの?
福岡 ほんとはダメだったんだけど、ゼミの先生がゆるくて、「週に1回大学にくればいいよ」って言ってくれて。あのときは東京と徳島の往復で、一生分飛行機乗った気がする(笑)。
この仕事が向いてたと、ようやく思えるようになってきた
福岡 私、チャットモンチーでデビューしてから5年ぐらいは──そのときはベース弾いてたんやけど──私よりベースが弾けて、私よりチャットモンチーを盛り上げられる人がいたら、いつでも代わっていいって思ってた。
福岡 私はもともとチャットモンチーのファンで、メンバーになる前は観客としてライブに行ってたから、とにかく世の中にチャットモンチーが広まってほしくて。それこそ私は裏方で支えるのもいいって思ってた。
平岩 うんうん。
福岡 常に、「好きだからこの仕事やってる」「嫌だったら辞めなあかん」っていう気持ちが、混在してる。最近ようやく、「やっぱり音楽が好きやなあ、この仕事が向いてたのかも」って思って。
平岩 わかるわあ。
福岡 紙ちゃんはどう?
平岩 めっちゃ一緒や。30歳超えてから、ようやくまわりが見えだした。20代はがむしゃら。「この声で演技したいのに、できへん」って、目指すところにいけなかった。
私、演技の成長がすっごく遅いんよ。もっと早い時期から自由な演技ができるようになっていたかったなあって思うけど、これが自分のペースやったから仕方ないかなあとも思う。最近ようやく演技が楽しくなってきたなあって思うんだけど、こないだ松尾さんと取材を受けてるときに、「ようやく楽器を弾けるミュージシャンになったんじゃない?」って言われて。
福岡 おお~。
平岩 楽器って、弾きたい音で弾けないと楽しくないでしょ。だから「ほんまや、そのとおりや」と思って。ようやく自分が楽器として鳴り出したというか。だから20代には戻りたくないなあ。
福岡 私も。もし昔に戻って職業を選び直せるとしても、たぶんまた同じ選択をすると思う。間違ったこともいっぱいしたと思うけど、いい選択できてよかったなって思う。
音楽やってる人の芝居は、リズムが決まってないのがいい
平岩 私は、もし役者にならなかったら、ミュージシャンになりたかったなって思う。
福岡 ほんま? なんで?
平岩 苦しいやろうけど、めっちゃ楽しそう。メンバーみんなで練習して、お客さんの前で楽器弾いて、毎日音楽のことだけ考えていられるのがうらやましいなあと思う。自分には音楽を作る才能がまったくないし、ギター買ったりしても、弦楽器が苦手で。夢だけがどんどん大きくなる。
福岡 へえー。私も、めっちゃ女優気になるんよ。私には絶対無理な職業やから。
平岩 私と逆や。
福岡 ほんまに真逆。MV撮影のちょっとした演技もほんまにできひんから、やり方を知りたい。
平岩 でも、チャットモンチーのMV見ても、あっこちゃんの芝居は自然やと思うけど。逆に役者がMVに出たときのほうが、芝居しすぎててイヤやなって思っちゃう。MV用の芝居するから(笑)。
福岡 あははは。
平岩 音楽やってる人の芝居って、リズムが決まってないのがいいねんなぁ。役者ってセリフを言うときのテンポがある程度決まってる気がするんだけど、ピエール瀧さんとか、(忌野)清志郎さんとかが芝居をすると、見事にそのリズムを壊してくれるの。
福岡 ああ~、そういえば、私が東京に上京してきたばっかりのとき、「あれ? みんなドラマみたいなしゃべり方してない」って思った記憶がある。「私が思ってた東京と違う!」って。
平岩 わかるわかる(笑)。私も大阪にいたときに東京の人のしゃべり方を真似してたけど、あれ、ドラマの真似やった。「なんとかだわ」とか。
福岡 「いいかげんにしなさいよ!」とかね。みんなそういうの言わへんのや、って、びっくりしたよね。
将来は、いい老人ホームに入りたい
福岡 仕事とプライベートのどっちを取るかって、考えたことある?
平岩 まさに今、その選択を迫られてる最中かも。結婚とか出産のことを考えると、仕事を中断しないといかんやんか。1年2年先の舞台の予定がある中で、もし子供ができたらチームの人に迷惑かけるし、どれぐらい先のことまで決めとけばいいんだろう?って思う。あっこちゃんは、結婚しそう?
福岡 子供ができてからでいいかな(笑)。
平岩 へえー。
福岡 私も、(子供ができたら)誰かに迷惑かけてしまうんじゃないかって、まわりのことを見てしまうタイプなんやけど、うちのボーカルに子供がおるのね。彼女を見てたら、いつそうなってもいいように一日一日を過ごしてればいいんや、と思えるようになって。
平岩 いいな、自然で。
福岡 そう。でも、女の人はどうしてもそういう局面があるよね。男のバンドマンとか、ええなあって思うもん。
平岩 めっちゃうらやましいよなあ? 何歳になっても、奥さんが若ければ子供を授かれるし。
福岡 なあ?
平岩 親からも「結婚しろ」とか「孫がほしい」とか全然言われへんから、「どうしよう、このままひとりかも」と思って。「めっちゃお金貯めて、すごいいい老人ホーム入ろうかなぁ」って思ったりする。
福岡 わかる!(笑)それ考えるよなあ?
平岩 『やすらぎの郷』とか観てると、「こういうのも楽しいかもな」って(笑)。
福岡 友達といっつもそういう話する。将来、知り合いばっかりでシアターとかカフェのある老人ホームに入って、週1でカッコイイ介護士さんに来てほしいとか(笑)。マジにっていうより、その場の安心感が欲しいだけなのかもだけど。
平岩 (笑)。
福岡 地元の徳島にいたら、なんとしても結婚しなきゃ、って思ってたかもしれないけど、東京って結婚してない人が多いから、危機感もないし、危機とも思ってないし。そういう話で、なんとか日々をやりすごす、みたいな(笑)。
平岩 わかるわぁ。
福岡 男の人と比べると、女性のほうが人生の中に区切りがいっぱいあるやん。初潮がきて、結婚して、姓が変わって、子供が産まれて……って、生まれ変わるタイミングが何回もある。逆に言うと、男の人って、ずーっと狩りの本能って言うのかな、戦うモチベーションを保つのが大変やと思う。
平岩 女に生まれてよかったと思う?
福岡 うーん。一回男になってみたいかなあ。男になって、めっちゃはべらしてみたい(笑)。
平岩 私も男のほうがいいかなあ……。男の人はラクそうやなって思う。姓が変わったりなぁ。
福岡 そうね。
平岩 別姓でいいやんって思うし、お墓もめんどくさい。死んだらもう、どこでもいいやんって思う。いろんな考え方がせせこましくて。
福岡 わかる。女の人に限らずかもしれないけど、なんでやねんってこと多いよな。
次回「わたしたちが二十歳の頃にやれて心底よかったこと」は8/9更新予定
構成:上田智子
平岩紙 主演舞台『業音』、8月10日(木)より上演スタート!

舞台『業音』
作・演出:松尾スズキ
出演:松尾スズキ 平岩紙 池津祥子 伊勢志摩 宍戸美和公 宮崎吐夢 皆川猿時 村杉蝉之介 康本雅子+エリザベス・マリー(ダブルキャスト)
上演スケジュール:8月10日(木)~9月3日(日) 東京芸術劇場シアターイースト
9月13日(水)~9月14日(木) 名古屋青少年文化センターアートピアホール
9月16日(土)~9月18日(月・祝) 福岡西鉄ホール
9月29日(金)~9月30日(土) まつもと市民芸術館
10月5日(木)~10月7日(土) パリ日本文化会館 大ホール