神田松之丞“絶滅危惧職”講談師を生きる!

第四回 四年目の限界

ここ数年、演芸ファンの注目を集め続けている男がいる。
神田松之丞、1983年生まれの33歳。90年代以降、東京の講談界では入門者の多くが女性であり、日本講談協会にも、もう一つの講談団体である講談協会にも、彼以降に入門して現在まで現役でいる男性講談師は二人しかいない。一時期の松之丞は「東京で唯一の二十代男性講談師」だった。


撮影・青木登(新潮社写真部)

 自分の会を開いたことによって光明を見出した松之丞だったが、依然として前座のままだ。残り一年、と二ツ目昇進のゴールは見えてきたものの、すでに鬱屈は耐えがたいレベルに達していた。「もうこんな前座修業やりたくない」という態度を全身で表し、義務であるはずの太鼓の稽古会も他の用事をわざと入れてしまうなど、気持ちは爆発寸前になっていた。

「一度、ある師匠に太鼓が叩けなくて猛烈に怒られたことがあるんですよ。その師匠は僕に気を遣ってくださって前座全体に向けて『天狗連(芸人気取りのアマチュア)じゃねえんだから、叩けないなんてあるか』みたいな言い方をしたんです。指導する係として当然のことなんですけど、僕は無駄に鼻っ柱が強くて『そもそも講談っていうのは太鼓がないんだし、こんなことで測ってんじゃねえよ』とか『そういうことを言う発想がだいたい天狗連なんだ』みたいなことを聞えよがしに呟いて。その師匠は大人だから、それ以上僕にガーッと怒ると、引っ込みがつかなくなって下手したら僕が破門になりますから、そこで黙ってしまわれた。ちょっと治外法権みたいなことになってました。とにかくもう、二ツ目になったらあれもやろうこれもやろう、みんなを驚かせてやろうと、そういう妄想ばっか広がってました。いや、それは前座の一年目からか(笑)。僕、末廣亭の狭い楽屋ん中で上の人の着物を畳みながら『なんでこんなつまんないやつの着物を畳まなきゃいけないんだよ』って言ったこともあります。絶対それ聞こえてるんですよ。気が狂ってたんでしょうね、ちょっと」

 当代神田松鯉は芸人の間でも人格者として知られる。その恩恵がいかに大きかったかということだ。

「人生いろいろありましたけど、うちの師匠を選択したっていうのは僕の中で最良の選択でした。完璧です。そこを外さなかったことは褒めてやりたい。他は選択ミスをいっぱいしたと思うんですけど、神田松鯉を選ぶことはできた。そして入門してみたら、そこは最高の場所だったんです。師匠はすべてを提供してくれた。何から何までよかったです」

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新潮社
2017-07-21

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神田松之丞“絶滅危惧職”講談師を生きる!

神田松之丞 /新潮社yom yom編集部 /杉江松恋

ここ数年、演芸ファンの注目を集め続けている男がいる。 神田松之丞、1983年生まれの33歳。90年代以降、東京の講談界では入門者の多くが女性であり、日本講談協会にも、もう一つの講談団体である講談協会にも、彼以降に入門して現在まで現...もっと読む

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コメント

pingpongdash いいなぁ、いい話だなぁ。 約3年前 replyretweetfavorite

marekingu 演芸界でもっとも熱い男、講談師・ #スマートニュース 約3年前 replyretweetfavorite

Masaru1118 松之丞さんの強烈な自我と松鯉先生の深すぎる懐。講談界にとっても素晴らしい出会い。 約3年前 replyretweetfavorite

kanamyk 連載中に雑誌が電子書籍に移行すると知った時には、この文章が図書館などに残らないのではと心配したが、書籍になると知ってかなりほっとしている。 約3年前 replyretweetfavorite