前回、私の独断で世界のワインを無理やり、以下の5つに分類し、(1)と(2)を取り上げた。
(1)ボルドー系の渋くてどっしりした赤ワイン
(2)ブルゴーニュ系の酸味がありエレガントな赤ワイン
(3)辛口の白ワイン
(4)超甘口のデザート・ワイン
(5)シャンパーニュを頂点とするスパークリング・ワイン
今回からは、白ワインを取り上げる。白ワインは、(3)(4)(5)の3種類あるが、これ以外にも「半甘口の白ワイン」というものもある。この回では、圧倒的に人気のある(3)「辛口の白ワイン」を中心にたっぷり解説するが、その前に、半甘口の白ワインについても少し触れておこう。
ワイン愛好家は、半甘口の白ワインを「コーラみたいに甘い飲み物で飯が食えるか」と馬鹿にする傾向にある(一方、(4)極甘口のデザート・ワインは、なかなか出会えないので珍重する)。これは中途半端なワイン通。中華料理、和食、タイ料理は、砂糖をたっぷり使う料理なので、ガチガチの辛口ワインは料理とケンカして合わない。こんな料理には、半甘口の白が絶妙。例えば、すき焼きとカチカチに冷やしたドイツの半甘口白は、素晴らしい相性。癖になるはずだ。
料理と相性のいいワインを臨機応変に飲んでほしい。では、ここからは辛口の白ワインについて解説していこう。
辛口の白ワインは、シャルドネが一人勝ち
赤ワイン・ブドウは3つだったが、白は非常に単純だ。白ワインの品種も千以上あり、ソムリエなら数百は覚えているが、ワイン好きの人気投票ではシャルドネが圧倒的に「一人勝ち」。伝説の名馬、「ディープインパクト」が、2位以下を50馬身差で有馬記念を制覇する感じだ(例えが古い)。
シャルドネが超人気の理由はいろいろある。まず、辛口で旨味があるので食事に合う。特に、魚介類との相性は抜群だ。繊細な季節の食材を取り入れた和食とよく合う。また、白ブドウの中で、高貴種と呼ばれる葡萄がいくつかあり、その中のトップがシャルドネだ。
例えば、日本固有のブドウ品種、「甲州」は、貧乏長屋に住むしっかり者の長女的だが、シャルドネは、宮殿での晩餐会で茹でたアスパラガスが出ると、穂先の3cmだけ食って、「残りは筋っぽいから嫌だわ」と言いそうな我がままで生意気な北欧の王女様みたいなもの。
ここがワイン好きにはたまらない。シャルドネは、いわゆる「国際品種」で、世界中で作っているし、作りたがる(もちろん、日本でも)。白ワインの中で最も高価であり、1本80万円の超高級ワインから、1,000円の並級までいろいろなワインができるのも大人気の秘密だ。
シャルドネは、どんなレストランやワイン・ショップへ行っても必ず置いてある。置いてない店は、女性がいないガールズ・バーより少ない。ワイン・リストに載っているシャルドネは、ピンからキリまで、いろんな国の物がある。まずは、一番安い価格帯のものから試してみよう。価格が3倍になったからといって、美味さが3倍になる訳ではない。高価なワインは凝縮度が高くなり、濃厚になるだけ。あまり濃いと、繊細な季節感を出している和食は、シャルドネに四の字固めを食らってしまう。自分の好き嫌いを見つけるためにも、まずは低価格帯のシャルドネを1、2ヶ月飲んでみて、自分の中に軸を作るといい。
国ごとに異なるシャルドネの味わい
シャルドネは高く売れるので、世界中で作っている。作る場所によって味わいや香りが大きく変わってくるので、その点も楽しんでほしい。
(1)フランス
シャルドネの本場がフランス。特に、ブルゴーニュの白は銀河系で最も高級高価なシャルドネと言われている。贅肉を削ぎ落とした凝縮感が素晴らしい。大理石から削り出したギリシャの女神像みたいに、引き締まって品があるけれど、値段もものすごく高価なのがつらい。
(2)カリフォルニア
フランスのシャルドネが華麗なシェークスピア女優としたら、カリフォルニアのシャルドネは、美形のプロレスラー。力強さがあり、これが大好きな人もいるし、「やっぱ、シャルドネに必要なのは『官能』と『知性』で、『筋肉』はいらない」という人もいる。
(3)チリ
今や日本のワイン輸入量でフランスを越えたチリ。ワイン王国だ。チリのシャルドネのいいところは、安いこと。「正義は安さにあり」がモットーの私には、力強い味方だ。これだけの価格なのに、非常によくできている。毎日飲むにはこれだ。フランス物に比べると、マリリン・モンローみたいにグラマラス。この肉付きのよさが大好きな人は多い。
シャルドネには絶対に欠かせない「樽香」
ワイン通がよく使う言葉に「
他の白ワインでは樽を話題にしないけれど、シャルドネだけは、必ず樽の話になる。話題は超マニアックで、樽材の産地、樽の大きさ(小さいほど、樽香がつく)、樽の内側の焦がし加減(焦がすほど、香ばしくなる)など、愛好家は「樽」と1回言うごとに、ご飯を1膳食えるほど。樽香(別名、バニラ香で、バニラ・アイスクリームのような香り)は、シャルドネとものすごくいい相性。新品の樽(いわゆる新樽)ほど、バニラの香りがシャルドネにたっぷり乗り移る。
で、「新樽率100%のシャルドネ」は、化粧を1cmも厚塗りしたイケイケ風のオネエサンみたいに下品になるが、私を含め、これが好きな人が少なくない。要は、好き嫌いの世界。濃厚なシャルドネに新樽の香りをつけると、シャロン・ストーンが舞台化粧をしたような迫力があるけれど、力のないシャルドネに樽をかけると、白ペンキで顔を塗り固めたオバアサンになるので注意(ワイン界では、そんな白ワインを「フランケンシュタイン・ワイン」と呼ぶ)。山葵を山盛りにしたマグロの赤身みたいだけれど、それが好きな人もいるので面白い。
ラベルに、「樽」とか「Barrel」とあれば、多い少ないの差はあっても、樽に入れている(専門用語で、「樽をかける」)。そんな時は、ここの話を思い出してほしい。なお、樽の割合で、「新樽率30%」とは、新樽で3樽、2年以上の樽に仕込んだ7樽をブレンドすること。