第201回 最初に最後を考えて(前編)

「むむむ? 何だか怪しいぞ! どーして最初にジャンケンしたの?」とユーリは叫ぶ。「関数を手がかりに」シーズン第1章前編。
登場人物紹介

:数学が好きな高校生。

ユーリのいとこの中学生。 のことを《お兄ちゃん》と呼ぶ。 論理的な話は好きだが飽きっぽい。
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僕の部屋

ここはの部屋。いとこのユーリが遊びに来ている。

ユーリ「あー、退屈退屈ー!」

「人の部屋に遊びに来ておいて、退屈を連発するのはないよなあ」

ユーリ「だって、退屈だもん。ねー、お兄ちゃん。なんかおもしろいことないの? クイズとかパズルとか」

「そんなこと急に言われてもね」

ユーリはいとこだけど、のことをいつも《お兄ちゃん》と呼ぶ。

ユーリ「あっ! それじゃゲームしよゲーム! オセロとか」

「オセロねえ……あんまり」

ユーリ「お兄ちゃん、なにげに弱いもんね(数列の広場参照)」

「それに、ほら、オセロは登録商標だし」

ユーリ「理由になってなーい!」

「うん、じゃあ、こんなゲームをしようか。単純だけどおもしろいよ」

ユーリ「なになに、どんなの?」

ゲーム

「うん、まず最初にジャンケンで先攻後攻を決めよう。ジャンケン……」

ユーリ「ポン!」

「ユーリがチョキで僕がパーだから、ユーリが先攻だね」

ユーリ「そんでそんで?」

「ちょっと待って、準備するから」

は紙を出してきて、そこにたくさんのマルを書く。

ユーリ「ふむふむ?」

「このマルを交互に消していくんだ。何個消すかは自分で選べるけど、必ず$1$個は消さなくちゃいけない。それから、$4$個以上消しちゃだめ」

ユーリ「消す数は$1,2,3$個のどれかってこと?」

「そういうこと。かわりばんこに消していって、最後のマルを消した人の負け」

ユーリ「オッケー、わかった! 何個消そうかな……」

「それから、何個消すかを決めるのに時間を掛けちゃだめ」

ユーリ「時間?」

「相手が$10,9,8,\ldots$とカウントダウンしていって、$0$になるまでに消すこと。もたもたしちゃだめだよ。じゃあ、スタート! $10,9,8,\ldots$」

ユーリ「えっ、ええええっ……えーっと!」

ユーリはあわててマルを$3$個消す。

「$3$個消したんだね。じゃ、今度は僕が消す番だ」

ユーリ「急にカウントダウン始めるの、ずるいよー。$10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0$ はい時間!はい時間!」

ユーリはものすごい速さでカウントダウンした。はマルを$1$個消す。

「ずるいと言いながら、そんなに早口でカウントダウンするなよ、ユーリ」

ユーリ「へへー」

「じゃ、ユーリの番だよ。$10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0$ はい、消した?」

ユーリ「お兄ちゃんだって、早口じゃん! いま消す!」

「消したね」

ユーリ「$10,9,8$」

「消したよ」

ユーリ「え? もー消したの?」

「$10,9,8,7,6,5$」

ユーリ「待って待って!……残りが少ない! はい、消した!」

「はい、消したよ」

ユーリ「あっ……最後の$1$個……」

「ということで、最後に$1$個残ったマルを消したユーリの負け! 今回の勝負は僕の勝ち!」

ユーリ「なんだそりゃー!!」

途中からカウントダウンの早口勝負になってしまい、二人で大笑いしてしまった。

ユーリ「うー! スリルあっておもしろいけど、負けたのはくやしー! だいたい、ルール説明直後すぐにカウントダウン始めるのってずるくない?」

「でも、もう様子はわかっただろ?」

ユーリ「わかった。もっかいやる!」

第2回戦

「じゃあ、もう一回、先攻後攻決めるジャンケンしようか。公平にね」

ジャンケンの結果、今度はが先攻になった。

ユーリ「お兄ちゃんが先に消すんだね」

「ちょっと待って、準備するから」

ユーリ「じゃ、いっくよー! $10,9,\ldots$」

「はい、消した」

ユーリ「早っ!」

「$10,9,8,7,6,5,4,3,2,1,0$ 消した?」

ユーリ「消したよん」

「はい消した」

ユーリ「何でそんなに早いの? まだカウントダウンしてないよっ!」

第2回戦は、こんなふうに進んでいった。

「ということで、ユーリの負け」

ユーリ「……」

「第3回戦、やる? もう飽きた?」

ユーリ「……むー。もっかいやる」

「じゃ、また、先攻後攻をジャンケンで決めようか。公平に……」

ユーリダウト

「何がダウト?」

ユーリ「お兄ちゃん! ユーリの目はごまかせませんぜ。なんだか変! お兄ちゃんが必ず勝つようなトリックがある!

「ジャンケンにトリック?」

ユーリ「ちがう……そうじゃなくて、お兄ちゃんは、ジャンケンして先攻後攻を決めたになってから、マルを書いてるよね。二回とも」

「ぎく」

ユーリ「さっきの紙、もっかい見せて!」

第1回戦の記録(ユーリ先攻)

第2回戦の記録(ユーリ後攻)

「……」

ユーリ「ねー、お兄ちゃん。ユーリ先攻のときはマルが$13$個でスタートしたけど、ユーリ後攻のときはマルが$14$個でスタートしてるよねー。これは?」

「よく気がついたなあ」

ユーリ「……待って待って。し・か・も、ユーリ後攻の第2回戦で、お兄ちゃんはさっさとマルを$1$個消したよね。ってことは、ユーリの番でマルは$13$個になってる。これって第1回戦と同じ状態じゃん! さー、正直に言っちまいな。何を企んだのかね?」

「はいはい、正直に説明しますよ。ユーリ探偵。このゲームは《残り$13$個で相手の番にしたら必ず勝てる》んだよ。つまり、必勝法が存在するってことだね」

ユーリ「ひっしょうほう! 必ず勝つ方法! 何それひどーい! いたいけな乙女を惑わすなんてしくしく……」

「探偵じゃなかったのか」

ユーリ「乙女な探偵なの! ……でも、なんで《残り$13$個で相手の番にしたら必ず勝てる》の? $13$ってそんな不思議な数なの?」

「それが問題になる」

問題

このゲームでは、残り$13$個で相手の番にしたら必ず自分が勝てる。それはなぜだろうか。

ユーリはそこで軽口をやめ無言になる。栗色の髪が金色に輝き、急速思考モードに入る。 は彼女の思考を邪魔しないように無言になる。 彼女が思考を一時中断するまでは沈黙が生み出す静寂が必要なのだ。

ユーリ「わかった! $13$だけじゃないね、お兄ちゃん!」

「わかった?」

ユーリ「わかった。$$ 1,5,9,13 $$ なんでしょ?」

「その通りだね。名探偵ユーリは、謎をすべて解いたのかな?」

ユーリ「解いたよん!」

「『名探偵、皆を集めてさてと言い』」

ユーリ「何それ……あのね、最初に、最後を考えたの」

「最初に最後を考える?」

ユーリ最後にどうなったら勝つかを考えるの。最後の$1$個を消した人が負けるんだから、《最後の$1$個を相手に消させたら勝つ》わけでしょ? 相手の番で、残りが$1$個なら、自分が勝つ」

相手の番で、残りが$1$個なら、自分が勝つ

「うん、そうなるね」

ユーリ「てことは、自分の番で残りが$2$個、$3$個、$4$個のどれかになってれば、勝てる。だって、自分の番で残りが$2$個なら$1$個消す、$3$個なら$2$個消す、$4$個なら$3$個消せばいいもん。 そーすれば、相手に最後の$1$個を押しつけられる」

自分の番で、残りが$2,3,4$個なら、自分が勝てる

  • 残りが$2$個なら$1$個消す。
  • 残りが$3$個なら$2$個消す。
  • 残りが$4$個なら$3$個消す。
残りは$1$個になる(→相手がそれを消すことになる)

「いいねえ」

ユーリ「自分の番で残りが$2,3,4$個になってれば勝てるんだから、《相手の番で$5$個にすれば勝つ》わけでしょ」

「それはどうして?」

ユーリ「だって、相手の番で残り$5$個だったら、相手が$1$個消したら残り$4$個、$2$個消したら残り$3$個、$3$個消したら残り$2$個だけど、残り$4,3,2$個のどれでも、自分の番で残り$1$個にできるから」

相手の番で、残りが$5$個なら、自分が勝てる

  • 相手が$1$個消したら$4$個残る。
  • 相手が$2$個消したら$3$個残る。
  • 相手が$3$個消したら$2$個残る。
どの場合でも、 自分の番で残りが$2,3,4$個になっている(自分が勝てる)。

「いいねえ。ユーリの推理はすばらしいな!」

ユーリ「えへへ。あとはその繰り返しでしょ。$4$個ずつ増やしていけばいい!」

  • 相手の番で残り$1$個なら、自分が勝つ。
  • 相手の番で残り$5$個なら、自分が勝てる。
  • 相手の番で残り$9$個なら、自分が勝てる。
  • 相手の番で残り$13$個なら、自分が勝てる。

「……」

ユーリ「ジャンケンで公平に見せかけておいて、ユーリが先攻になったら、$13$個のマルを書く。 ユーリが後攻になったら、$14$個のマルを書いておいて、お兄ちゃんはすぐに$1$個消す!」

「……」

ユーリ「お兄ちゃんは、$1,5,9,13$ってゆー数を覚えてたんでしょ!ユーリの番に回すときに、必ず$1,5,9,13$になるよーに毎回残りの個数を数えてたんだ! 謎はすべて解けた! 反論はあるかね?」

「すばらしい名推理! その通りなんだけど、一点だけ違うことがある」

ユーリ「何?」

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数学ガールの秘密ノート

結城浩

数学青春物語「数学ガール」の女子高生たちが数学トークをする楽しい読み物です。中学生や高校生の数学を題材に、 数学のおもしろさと学ぶよろこびを味わってください。本シリーズはすでに何冊も書籍化されている人気連載です。 (毎週金曜日更新)

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hyuki 金曜日は『数学ガールの秘密ノート』の日。最新回は今回お休みですが、過去記事の無料リンク2個をツイートします。 公式 最初に最後を考えて(前編) 【10/13 13:08まで無料 】 https://t.co/0gZQhw7eV1 約1ヶ月前 replyretweetfavorite

wed7931 久しぶりの新シリーズ。ギリギリで読めた。ここからどう進むんだろう?連続と離散?ちょっと読めない。 3ヶ月前 replyretweetfavorite

marekingu #スマートニュース 4ヶ月前 replyretweetfavorite

kazuki_0014 |結城浩 @hyuki |数学ガールの秘密ノート 夏休み https://t.co/ORK6PWQm5f 4ヶ月前 replyretweetfavorite