藤田貴大
手荒れがひどい女子。
ーそれだけで好きになりそうー
【第15回】 女子たちに告げたい。とくに手荒れで悩んでいる女子たちに。もし、その手がコンプレックスで、すべすべにしたいと願っているなら、ちょっと待ってほしい。少なくともケアをするのは、このエッセイを読んでからにしてほしい。だって、この世界にすくなくとも1人、その手を待っている男子がいますから。
手荒れがひどい女子に、ひどく惹かれてしまうのはぼくだけだろうか。
もともと、しわしわした手指を見かけると目が離せなくなってしまうのだけれど、特に、手荒れはいい。手荒れはほんとうに搔き立てられる。彼女はなぜ、こんなにも手荒れしているのに洗い物をしなくちゃいけないのか。彼女はなぜ、こんなにも手荒れしているのに今日も誰かに会わなくてはいけないのか。華奢(きゃしゃ)な手指に手荒れが降りかかると、途端に、どうしたって不幸なかんじが増してきて、同情を誘う。
手荒れは憎いやつだとおもう。手荒れってだけで、もう好きになりそう。ニベアなんてあげない、アベンヌもあげない、ヴァセリンもあげない。アロエエキス? あげるわけない。治ってしまうと、また手荒れになるまで、待たなくてはいけなくなるでしょう。手荒れでささくれて硬くなった皮膚を、ゆっくり撫でたい。そしてあなたの代わりに洗い物をしたい。この洗剤のせいで手荒れしたんだー、なんて、おもい馳せながら。あなたの手を荒らした洗剤をぼくの手指におもいっきりぶっかけたい。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。