藤田貴大
口内炎は見せてほしい。
ー興奮とうずうずを抱えてー
【第14回】 興奮する。たまらなく興奮する。でも、口に出して「見せてよ」なんて、決して言えない。そんなジレンマを抱えて電車に乗る男は、気鋭の演劇作家。もし、女子たち(もしくは男女)の会話に耳をそばだて、口元を見つめてうずうずしている男子がいたら、ひょっとして・・・。いやいや、男子がみんなそういうわけではないと思いますが。
原因は未だによくわからないのだけれど、イカを食べたことがきっかけでぼくの作品によく出演している女優の吉田聡子がちょっとしたアレルギーを患ってしまって、肉類など、そういうのを食べると蕁麻疹(じんましん)が出てしまうので、彼女は最近、野菜ばかりを食べている。そのこと自体はとても心配なんだけど、同時に、申し訳ないのだけど、彼女のからだの至るところに次々と出てくる発疹に魅せられてもいる。
赤く充血した点が、彼女の皮膚から隆起してくる。そのことが、どうも興奮する。口内炎ができた場合、見せてもらいたくなるのだが、口内炎見せてよ? なんて言っても、口内炎を見せてくれるひとなんて、なかなかいないし。っていうか、口内炎見せてよ? なんてなかなか言えない。
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この連載について
藤田貴大
演劇界のみならず、さまざまなカルチャーシーンで注目を集める演劇作家・藤田貴大が、“おんなのこ”を追いかけて、悶々とする20代までの日常をお蔵出し!「これ、(書いて)大丈夫なんですか?」という女子がいる一方で、「透きとおった変態性と切な...もっと読む
著者プロフィール
1985年生まれ、北海道出身。桜美林大学文学部総合文化学科にて演劇を専攻、2007年に『スープも枯れた』でマームとジプシーを旗揚げ。2011年に発表した三連作『かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。』で第56回岸田國士戯曲賞を受賞。2013年『てんとてんを、むすぶせん。からなる、立体。そのなかに、つまっている、いくつもの。ことなった、世界。および、ひかりについて。』で初の海外公演。さまざまな分野のアーティストとの共作を意欲的に行うと同時に、中高生たちとのプロジェクトも積極的に行っている。主な演劇作品は『あ、ストレンジャー』『cocoon』『書を捨てよ町へ出よう』『小指の思い出』『ロミオとジュリエット』『sheep sleep sharp』など。著書に『おんなのこはもりのなか』『Kと真夜中のほとりで』がある。