自分のことなのに別人のことのように思う時ありませんか?【第8回】

フリーアナウンサー・羽鳥慎一氏の妻であり、人気脚本家である渡辺千穂さんの初エッセイ連載。世間の愛すべき「夫」の実態を知ることで、夫への見方がプラスに転じる、「なんかいいじゃん、うちの旦那!」と再発見できること必至! 夫への不満でメンヘラになる前に、離婚届にサインする前に、この連載でほっこり温まってください。第8回のテーマは「女性のライフスタイル」について。渡辺千穂さんの場合……。

ある程度の年齢になって昔を振り返ると、自分のことなのに別人のことのようだと信じられない思いになることも、戻りたいと思うことも、二度と戻りたくないと思うことも、あったりする。

久しぶりに会った友人が別人のように変わっていることもあるし、近況や噂話を聞いて、「あの彼女が⁉︎」と驚くこともある。女性のライフスタイルが変わるきっかけは、仕事だったり、出逢いだったり、別れだったり、結婚だったり、引っ越しだったり、それに伴う価値観の変化にあるのではないかと思っている。

私が大人になってからの自分の人生を振り返ると、ざっくり、①会社員時代の20代後半まで、②脚本家前期の20代後半〜30代前半、③脚本家中期の30代中盤〜40歳過ぎ、④脚本家後期の40歳過ぎから現在までに分かれている。

②の脚本家前期は、とにかく仕事が忙しかった。③の中期は、とにかく日々が楽しかった。そんな感じだったので、周りに比べたら全くと言っていいほど、結婚願望がなかった。子供は欲しいと思っていたけれど、それも漠然とした「いつか」の話で、結婚してゆく女友達に対しても、焦りや嫉妬的な感情を持ったことがなかった。逆に、若いうちに決断できることを、すごいと思っていた。

脚本家の仕事を始めてからできた女友達は、ほぼ仕事を通して知り合っている。一緒に番組を作ったプロデューサーやディレクター、テレビ局の宣伝部や広報やデスク、女優、タレント、メイク、スタイリスト、マネージャーなどなど。気が合う人々は、皆さんサバサバしている。

そしてこの業界の第一線で活躍している人にヒマな人はいないので、基本、皆さんめちゃくちゃ忙しい。仕事をしているので、経済的にも自立している。だからというわけではないけれど、独身も多いし、一般的に言えば結婚が遅い人も多い。私は41歳で結婚して、43歳で出産したけれど、それもそう珍しいことでもない。だけど世の中に出てみると、こんな高齢出産は滅多にいなくて、私より年上の第一子ママに会ったことがない。

そんな感じなので、20代後半〜30代後半という結婚や出産をちゃんと考えてもおかしくないような時期に、私は、今考えるとあり得ない生活を送っていた。振り返ると「多忙」という文字しか浮かんでこない。とにかく、忙しかった。なぜそんなに忙しかったのかというと、来る仕事をすべて受けていたからだ。

デビュー当時、ドラマ作りなどなにも知らないド素人の私は、デビュー作の現場で本当に色々なことを教えてもらい、「経験はなにごとにも変えられない宝である」と身をもって実感した。たくさんのドラマを作りたい思いでいっぱいで、オファーを頂けることがとてもありがたかった。また、自分が受けられなかった仕事を誰かが手掛けるというのがとても嫌で、自分の時間を犠牲にすれば済むのなら全部やりたいと、そんな感じで仕事をしていた。なので、大げさではなく、寝る間もないほど忙しかったのだ。

その頃から、打ち合わせ場所やスタジオなどには、自家用車で通っていたのだけれど、打ち合わせの帰り道、あまりにも疲れすぎて眠すぎて、家までもうちょっとなのに辿り着けずに、力尽きて寝てしまったこともある。タクシーの方がよっぽど楽だとは思うのだけど、その頃の私にとって、ひとりで車を運転する時間は、貴重な気分転換の時間だった。

たとえば、打ち合わせが終わった深夜。六本木にある行きつけの24時間スーパーに行く。深夜でもそこそこ品揃えが良くて、人もそう多くなく、ゆっくりと買い物ができた。今でも、そのスーパーに子連れで行くことがあるけれど、昼間のスーパーは活気があって、客層も雰囲気も全然違って、まるで別の店のようで、レジの列に並びながら、「私の生活も変わったなあ」と、しみじみ思ったりする。

深夜の岩盤浴にもよく行った。友達とお喋りしながらデトックスできる、一石二鳥の場だった。ただ、締め切りに追われていると、その時間すら取れなかった。とにかく書かなければならない時はファミレスだ。あの時代、私にはファミレス仲間がいた。Jという、国家試験の勉強をしていた、医学部の学生だ。「今日何時に集合する?」Jとは、そう書かれただけのメールを何通やりとりしたかわからない。それこそ数年間、ファミレスでしか会ったことがなく、なにを話すわけではないのだけれど、意味のない話の話し相手として存在してくれたことを、とても感謝している。

そして私にとって、深夜のファミレスといえば、店員さんのM木さんとN村さんだ。M木さんは当時50歳前後だったのだろうか。エキゾチックなお顔をした明るい人だった。N村さんは30代。スラッとしていて、きちんとした人だった。お二人には、なにかと声を掛けていただき、親切にしていただいた。深夜のファミレスの蛍光灯の明るさは、私の気持ちも明るくしてくれた。

打ち合わせ以外では、この3人としか話していないという日が続いていてたある日。その日は午後が締め切りで、メール送信してから打ち合わせに出かけるまでに、「30分間」の時間があった。お風呂に入るか、ご飯を食べるかの2択だ。

女子としては、たとえ打ち合わせでも、お風呂に入らないのはNGだ。お腹もめちゃめちゃ空いている。が、打ち合わせに行けば、出前を取ってもらったり、お弁当が出る可能性もある。けれど、お腹が空いているのは今だし……。などと考えている時に、パッと閃いた。「お風呂に入りながら、ご飯を食べればいいんだ!」なんていい案なんだと、喜び勇んでカップ焼きそばを作り、ちゃんとお湯を捨ててから、風呂場に持ち込んで食べた。

この続きは有料会員登録をすると
読むことができます。
cakes会員の方はここからログイン

1週間無料のお試し購読する

cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。

人気の連載

おすすめ記事

好評発売中!

この連載について

初回を読む
あなたの夫は素晴らしい人だと叫びたくなる

渡辺千穂

中高年女性の間でときに「断捨離対象」のような扱いを受ける「夫」という存在。一生の愛を誓ったはずの夫が、いつ、どこで、どうして変化してしまったのか……。そう思い悩む中高年予備軍(30〜40代)の妻たち、結婚を控えている女性へ向け、人気脚...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

marekingu #スマートニュース 約3年前 replyretweetfavorite

tomshirai 女2人でワイン2本以上空けて、そのままお泊まりとか。毎晩、違う友達とご飯行ってたり。自分なんだけど遠い話…。 約3年前 replyretweetfavorite