現代的なホームドラマとしての『芝浜』

同じ『芝浜』は一つとしてない。
志ん生、文楽ら昭和の名人から、志ん朝、談志、さらには小三治、談春、一之輔など現役トップの落語家まで、彼らがどのように演目を演じてきたのかを分析。落語の魅力と本質に迫る新刊『噺は生きている 名作落語進化論』(広瀬和生著)。
本書の刊行を記念し、cakesでは「第一章 芝浜」を特別公開します。
第5回は、五代目三遊亭圓楽の『芝浜』について。

平凡な夫婦の物語として

談志や志ん朝と同じ世代で『芝浜』に思い入れを見せた代表的な演者に、五代目三遊亭圓楽がいる。

体調不良により引退を決意した彼が「最後の高座」として2007年に国立演芸場で演じたのが『芝浜』であり、私費を投じて1985年に建てた寄席「若竹」が1989年に閉鎖されることになったとき、その「若竹最後の高座」で演じたのもやはり『芝浜』だった。

五代目圓楽は『芝浜』を四代目柳家つばめから教わった。つまり噺の骨格は三代目三木助と同じだが、肌合いはまるで異なる。

『芝浜』に思い入れがあったというと、さも大ネタ然とした演り方だったように思えるだろうが、実際はそうではなくて、この噺を「平凡な夫婦の物語」と捉えた圓楽の『芝浜』は、「お茶の間」感あふれる下世話なホームドラマ、という感じだ。

圓楽という演者の最も大きな特徴は、落語の中に「現代的な会話」を持ち込んだ、ということ。それはともすれば落語の美学を損ない、落語通には敬遠されたが、『芝浜』のような噺から「噓くささ」を排除するには効果的だったのは間違いない。

美談ではなく、いい話

圓楽の『芝浜』の最大の特徴は、亭主の素直さ。

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噺(はなし)は生きている 名作落語進化論

広瀬和生

同じ『芝浜』は一つとしてない。 志ん生、文楽ら昭和の名人から、志ん朝、談志、さらには小三治、談春、一之輔など現役トップの落語家まで、彼らがどのように演目を演じてきたのかを分析。落語の魅力と本質に迫る落語評論本、『噺は生きている 名...もっと読む

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コメント

jhanagata 全部聴いてみないとなぁ。 ホント、楽しそうだ。 約3年前 replyretweetfavorite

mai_tosho 広瀬和生さんの芝浜連載、今週は五代目圓楽の登場です。ホームドラマとしての『芝浜』。『噺は生きている 名作落語進化論』もついに発売! 8/21(月)にはサンキュータツオさんをお迎えした刊行記念トークも。開催情報もこちらでどうぞ。 https://t.co/XvSE18UbNe 約3年前 replyretweetfavorite