小学校5年生の頃だろうか。
僕は、鼻炎の治療で病院に通っていたのだが、診察室で急に先生に注意されたことがある。
「5年生のくせにどうした?」
はっと気がつくと、僕は、診察室のドアノブを無心にガチャガチャ回していたのである。注意されなければ多分無限にやっていただろう。自分でも思った。これは小学5年生のやることじゃない。しかし、僕はドアノブに限らず、音の出るものを無意識に延々いじる癖があった。そのたび、大人に注意された(そういえば、大人になってもケータイの開いて閉じてパチンという音が好きで、一人のときはしょっちゅう無意味に鳴らしていたものだ)。
道路でもよくドライバーに注意された。平気でよく道に飛び出すので「死にたいのか!?」と怒鳴られたこともある。そのたびへこむのだが、なにかに気をとられていると、つい、道に飛び出してしまうのである。小学3年生の頃、自転車で道に飛び出し、走ってくるトラックの真横に突っ込み自転車を大破させたことがある。このときは、生まれて初めて父親に殴られた。奇跡的に無傷だったが、不注意による怪我は数限りない。骨折を2回、針で縫う傷が2か所、ゴルフボールを解体しようとナイフを突き刺したところ、刺した場所が自分の親指の爪で、母がただアロエを塗るという中途半端な治療をしたため、1か月も左手に包帯を巻いていたこともある。子供の頃の自分は歩く不注意だった。
さすがに、完全なバカじゃないので、大人になるにつれ学習し、怪我をするほどの不注意はなくなっていった。むしろ、劇団を作りリーダーになり、僕はいつの間にか新人たちに注意する側になった。劇団結成当初、初期メンバーに言わせると僕の「指導」はそうとう怖かったらしい。その後、最初の結婚をするのだが、相手が僕以上に不注意な女性で、よく自転車で転んで血まみれになったり、つながれた犬にちょっかいをかけて咬まれて血まみれになったり、酒に酔って人に迷惑をかけたり、とにかく、注意が必要で、僕の不注意はその陰に隠れ切ってしまった。
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