東京の夫婦

ほぼ、毎日。[第三十回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第三十回は松尾さんと奥さんの日常について。イラストは近藤ようこさんです。


 小学校5年生の頃だろうか。
 僕は、鼻炎の治療で病院に通っていたのだが、診察室で急に先生に注意されたことがある。
「5年生のくせにどうした?」

 はっと気がつくと、僕は、診察室のドアノブを無心にガチャガチャ回していたのである。注意されなければ多分無限にやっていただろう。自分でも思った。これは小学5年生のやることじゃない。しかし、僕はドアノブに限らず、音の出るものを無意識に延々いじる癖があった。そのたび、大人に注意された(そういえば、大人になってもケータイの開いて閉じてパチンという音が好きで、一人のときはしょっちゅう無意味に鳴らしていたものだ)。

 道路でもよくドライバーに注意された。平気でよく道に飛び出すので「死にたいのか!?」と怒鳴られたこともある。そのたびへこむのだが、なにかに気をとられていると、つい、道に飛び出してしまうのである。小学3年生の頃、自転車で道に飛び出し、走ってくるトラックの真横に突っ込み自転車を大破させたことがある。このときは、生まれて初めて父親に殴られた。奇跡的に無傷だったが、不注意による怪我は数限りない。骨折を2回、針で縫う傷が2か所、ゴルフボールを解体しようとナイフを突き刺したところ、刺した場所が自分の親指の爪で、母がただアロエを塗るという中途半端な治療をしたため、1か月も左手に包帯を巻いていたこともある。子供の頃の自分は歩く不注意だった。

 さすがに、完全なバカじゃないので、大人になるにつれ学習し、怪我をするほどの不注意はなくなっていった。むしろ、劇団を作りリーダーになり、僕はいつの間にか新人たちに注意する側になった。劇団結成当初、初期メンバーに言わせると僕の「指導」はそうとう怖かったらしい。その後、最初の結婚をするのだが、相手が僕以上に不注意な女性で、よく自転車で転んで血まみれになったり、つながれた犬にちょっかいをかけて咬まれて血まみれになったり、酒に酔って人に迷惑をかけたり、とにかく、注意が必要で、僕の不注意はその陰に隠れ切ってしまった。

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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東京の夫婦

松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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コメント

yamanatsu なんていい話。→ 約2年前 replyretweetfavorite

maiko10126 わたしも極端に注意される側の人間なのにも関わらず、どこかに注意されたくないっていう気持ちがあるので、取り繕ったり恥ずかしくなったりする。。。 約2年前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "離婚して7年、僕が満喫した自由は、引き換えにこれだけの注意を引き連れて来た。そして、「ああ、自分は注意される側の人間だったな..." https://t.co/pssjma2dPO https://t.co/ZQSougl40C #drip_app 約2年前 replyretweetfavorite

matagoro 笑いあえる相方がいるの大事だな(´・ω・`) 松尾スズキの 約2年前 replyretweetfavorite