東京に来て30年以上がたつわけだが、まだ、東京の人としてやってないことはある。
地域の祭りへの参加。これが一度たりともできたことがない。正直、田舎にいる頃から含めて考えても、神輿を担いだ記憶がない。とはいえ、神輿を担ぎたいと思ったこともない。思いもしなければ神輿は担げない。町を「えいさ、えいさ!」と威勢よく神輿を担ぐ人たちを見て、正直、あの中に混ざりたいかというと、微妙である。あんな、なんというか、多幸感に満ちた表情を他人の前にさらしていいのか? という自問がある。
恥ずかしい。
そう、情けないことに僕は祭りに参加し、自制の利かない「えいさ顔」を人前にさらすことが恥ずかしくてしかたないのだ。男はふんどし姿、というのもハードルが高い。僕のお尻は毛だらけなのである。足ですら高校のときクラスメイトに、おまえは網タイツを履いているのかとバカにされたことがあって以来、なるべく人前に出したくはない。
かといって、男の子に生まれた以上、生涯一度も神輿を担がず死んでいっていいものか? バンジージャンプは一生やらなくていい。わんこそばも別に今生ではチャレンジしなくていい。だが、神輿ぐらい担いでいいのではないか、とも、自問する。
しかし、じゃあ、実際どうやれば、どんな手続きを踏めば、地域の祭りに参加できるのか?
前の結婚のときは、三宿に家を買い、10年も暮らした。回覧板も廻したし、週に一度はゴミ捨て場の掃除もした。近所の人に会えば挨拶も。にもかかわらず三宿の祭りには一度も、一度たりとも誘われなかった。どんな季節か忘れたが、三宿のようなこじゃれた町でも、毎年神輿は神社から担ぎ出され、緑道には縁日が立ち並んだものだった。祭りに参加する法被を着た人たちは、5割増しでヤンキーあがりに見える。三宿にもヤンキーがおるのか、と不思議な気持ちになった記憶がある。法被というものは人間の中に潜むヤンキー性を炙り出すものらしい。
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