東京の夫婦

恥ずかしい。[第二十六回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第二十六回は「子供」という存在について。イラストは近藤ようこさんです。


 東京に来て30年以上がたつわけだが、まだ、東京の人としてやってないことはある。
 地域の祭りへの参加。これが一度たりともできたことがない。正直、田舎にいる頃から含めて考えても、神輿を担いだ記憶がない。とはいえ、神輿を担ぎたいと思ったこともない。思いもしなければ神輿は担げない。町を「えいさ、えいさ!」と威勢よく神輿を担ぐ人たちを見て、正直、あの中に混ざりたいかというと、微妙である。あんな、なんというか、多幸感に満ちた表情を他人の前にさらしていいのか? という自問がある。

 恥ずかしい。
 そう、情けないことに僕は祭りに参加し、自制の利かない「えいさ顔」を人前にさらすことが恥ずかしくてしかたないのだ。男はふんどし姿、というのもハードルが高い。僕のお尻は毛だらけなのである。足ですら高校のときクラスメイトに、おまえは網タイツを履いているのかとバカにされたことがあって以来、なるべく人前に出したくはない。

 かといって、男の子に生まれた以上、生涯一度も神輿を担がず死んでいっていいものか? バンジージャンプは一生やらなくていい。わんこそばも別に今生ではチャレンジしなくていい。だが、神輿ぐらい担いでいいのではないか、とも、自問する。
 しかし、じゃあ、実際どうやれば、どんな手続きを踏めば、地域の祭りに参加できるのか?

 前の結婚のときは、三宿に家を買い、10年も暮らした。回覧板も廻したし、週に一度はゴミ捨て場の掃除もした。近所の人に会えば挨拶も。にもかかわらず三宿の祭りには一度も、一度たりとも誘われなかった。どんな季節か忘れたが、三宿のようなこじゃれた町でも、毎年神輿は神社から担ぎ出され、緑道には縁日が立ち並んだものだった。祭りに参加する法被を着た人たちは、5割増しでヤンキーあがりに見える。三宿にもヤンキーがおるのか、と不思議な気持ちになった記憶がある。法被というものは人間の中に潜むヤンキー性を炙り出すものらしい。

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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東京の夫婦

松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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コメント

takafumi_hah 松尾さんのマンションの隣の部屋はハマケンさんなのね! 2年以上前 replyretweetfavorite

thinktink_jp "しかし、近所付き合いというハードルは今回の引っ越しで一つクリアできそうだ。たまたまなのであるが、引っ越したマンションの隣の部..." https://t.co/YsFLpGrb7c https://t.co/xoDcDV4Xi3 #drip_app 2年以上前 replyretweetfavorite