東京の夫婦

東京にまた夫婦。[第二十回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第二十回は「夫婦」の縁なるものについて。イラストは近藤ようこさんです。


 5月1日、僕たちは結婚2周年を迎えた。
 妻のお母さんから電話がかかって来た。
「2周年? よく持ったわねえ!」

 びっくりされることなのか?
 でも、まあ、気持ちはわからないでもない。それくらい、僕の住んでいる世界は、M子にとって異世界だったらしく、仕事や人間関係に対する価値観の違いから、幾度となく喧嘩を繰り返しても来た。

 僕、僕、と、大人しそうな一人称で書いているし、実際、かなり静かなタイプではあり、この間も、蕎麦屋で、アメリカ人が蕎麦湯をざる蕎麦にかけようとしていたので「アフター! 蕎麦湯、イート・アフター・ドリンク!」と声をかけてあげられるほど優しい人間でもあるのだが、所詮九州でも一番気質の荒い北九州生まれの男子、いざ喧嘩となると壮絶な感じになる。

 壮絶であるほど、50過ぎての喧嘩はしんどい。
 翌日の身体に響くのである。別に殴り合いの喧嘩をしているわけではないが、自律神経に失調をきたし、ベッドから起き上がれなくなるのだ。

 だから、なるたけ喧嘩は避けたい。それがために、喧嘩の火種になりそうな話題は、つい秘密にしてしまう。その秘密を暴かれそうになると、ついつい、嘘をついてしまう。となると、嘘が大嫌いな妻は、とことんそれを追及し、また、大喧嘩になってしまうのだ。僕は「だいたい」で生きて来た人間。妻は「厳密」で生きて来た人間(実際この連載でも、僕の曖昧な記憶による記述は逐一チェックされ正されている)、そのギャップが火に油を注ぐ。

「あれほど、嘘をつかないでって言ったでしょ!」
「だから、嘘をつかせるのは誰なんだよ!」

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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東京の夫婦

松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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コメント

akyska すてき/”ここにも、東京という磁場に引き寄せられ、ありえない確率の出会いの下に結ばれ、家族になる男女が生まれたのだ。” 3年弱前 replyretweetfavorite

yomoyomo "この間、初めて知ったのは、チェッカーズのクロベエの葬式に「ファンとして」神戸から上京して参列した奥さんが、たまたま入った居酒屋で、あるAV監督にひとめぼれし、勇気を振り絞って電話番号を聞き出して、後日、食事をすることになった。" https://t.co/wB8E8eCt6e 3年弱前 replyretweetfavorite

oiranonoriko https://t.co/V4wENWs83N 3年弱前 replyretweetfavorite

osamufujii <「cakes」の配信では、近藤ようこさんのイラストが、カラーで見られます。 3年弱前 replyretweetfavorite