指せなくても、将棋のおもしろさはわかる
加藤 僕は、前述のとおり棋譜並べにはまって将棋の道に入り込んだんですが、梅田さんはそもそもどうやって将棋を覚えたんですが?
梅田 僕が将棋に出会ったのは小学校の頃ですね。その時は遊びで、父や友達と指して楽しんでいました。でも、歳を重ねるにつれて、観戦記を読んだり、NHK杯の大盤解説を観たり、将棋にまつわるエッセイを読んだりするのがおもしろくなってきたんです。
加藤 指すよりも。
梅田 そう。あるときから、将棋を観る、読む、という方の楽しみが大きくなった。奨励会という制度を含めた将棋界の仕組み、棋士の人間性、棋士の語りのおもしろさ、そのおもしろさにくるまれた棋譜、そういう全体が好きになったんです。昭和の時代に観戦記を書き続けた故金子金五郎九段の観戦記なんかは、そういう魅力の結晶みたいなものだと思います。
加藤 梅田さんは『羽生善治と現代』(中公文庫)で「一局一局の物語とは別に、将棋の進化についての物語に興味がある。複数の物語が折り重なり、重層的に奏でられていくことの楽しさがそこにはある」ということをおっしゃってますよね。
梅田 棋士というミクロと将棋界というマクロ、その両方にすごく興味があるんです。
加藤 将棋界のマクロというのは、たとえば梅田さんが『ウェブ進化論』(ちくま新書)で書かれた「知のオープン化」につながるお話ですよね。羽生世代やそれ以降の棋士たちが、将棋の技術をオープンにして、集団で強くなっていった過程はITの世界とつながっていますよね。
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