東京の夫婦

冗談と水。[第十九回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第一九回は「ユーモア」の有り難さについて。イラストは近藤ようこさんです。


 夜テレビをつけたら、いきなり臨時速報の画面になっており驚いた。それまで、DVDで007の映画を観ており、いったんテレビを切って、ウイスキーのソーダ割りを作って、再びテレビをつけたらそうなっていたのだった。

「熊本県で震度7の地震」
 夜9時30分。地震が起きたのが、9時26分。

 ダニエル・クレイグかっこいいなー、と、しみじみ思い、お酒を作っている間に、日本にまた、タダならぬことが起きていたのだ。

 洗面所から戻ってきたM子も、テレビの中のただならぬ空気に「ひい」と叫び、ただちに、スマホを取り出しTwitterをチェックした。東京でも、揺れを感じた、とつぶやく人も何人かいたが、激しいアクション映画を観ていた僕らは、まったく気づかなかった。震度7は、東日本大震災の最大震度と同じ。また大惨事になるのか。

 不幸中の幸い、津波の心配はなく、原発にも影響がないという。
 母の住む直方は震度4くらい。それでも、北九州地方にしては珍しい揺れだが、まあ、大丈夫だろう。

 にしても、映像の中で何度も繰り返し映される倒壊した建物、地割れした道路、肩寄せあって避難する人々の不安に歪んだ表情を見るにつけ、3・11の頃のことがフラッシュバックし、心が苦いもので満たされた。

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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東京の夫婦

松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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