松尾スズキ
ハワイで悪いか? [第十回]
「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第十回は「新婚旅行」について。イラストは近藤ようこさんです。
再婚するに際し、やらなければと思っていたのは、前の結婚のときやって来なかった、当たり前の夫婦がするようなことを当たり前にやってみる、ということだ。
なにしろ、日ごろの僕の仕事はとてつもなく当たり前じゃない。つい先日まで、舞台で美輪明宏の物まねで赤井英和の歌を歌っていたかと思えば、鹿児島の桜島で噴火のリポートをし、戯曲賞の審査員をやったと思えば、ダンスを踊ったり似顔絵を描いたり俳句を詠んだり、しっちゃかめっちゃかである。前の結婚では、そのしっちゃかめっちゃかを生活にまで持ち込んでいたので、結婚そのものがしっちゃかめっちゃかになってしまった。元妻が、事後承諾で次々にタトゥーを入れ始めたとき、ああ、とてもしっちゃかめっちゃかだ、としみじみ思ったものだった。
なので、この度は、前はやらなかった結婚記念日を祝うというのもやってみた。サプライズでバラの花を100本ばかり花屋で買ったりした。花屋さんは「こんなものいきなりもらったら奥さん、泣いて喜びますよ」と言ってくれて、まさかそんなと思ったが、家に戻り、妻に差し出すと、ほんとに泣いて喜んでくれた。
記念日の花束にはそれほどの効果があるのか! 50歳過ぎてそんなことに気づく。
見くびっていたなあ、花束。
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この連載について
松尾スズキ
東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む
著者プロフィール
1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、脚本家、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げし、97年『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』 で第41回岸田國士戯曲賞、2001年ミュージカル『キレイ’—神様と待ち合わせ下女』で第38回ゴールデンアロー賞、06年『クワイエットルームにようこそ』が第134回芥川賞候補作となり、’08年には、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞、’10年『老人賭博』で第142回芥川賞候補。
今年の8月10日から10月7日まで、東京、名古屋、大阪、福岡、松本、パリで大人計画の最新公演「業音」を作、演出、出演。 メルマガ「松尾スズキの、のっぴきならない日常」http://www.mag2.com/m/0001333630.html