東京の夫婦

気づくのが仕事であったりする。[第七回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第七回は「孤独」と「結婚」の関係について。イラストは近藤ようこさんです。


 気づくのが仕事であったりする。
 たとえばカレー屋のカレーのよそい方。ご飯が右でカレーが左、という形でテーブルに出されるケースが、どちらかというと多いことにこの間気づいた。しかし、僕は必ず、その後半回転させて、カレー右、ご飯左に直す。右利きの人間ならスプーンは右手に持つわけだから、右からカレーをご飯の山の方にすくいながら攻めて、山を突き崩すように食べた方が絶対食べやすいからだ。ご飯の方からカレーに向かうのはじゃっかんやっかいだろう。なぜ、それをちょっと考えないのだろうか?

 なんていう書き出しからカレーのよそい方を考察するコラムを書いたりしてお金を頂戴しているわけだ。
 だから、気づくことには敏感であるのだが、こと自分の話になると、はなはだ気づいていなかった、ということが結婚すると徐々にあきらかになってくる。

「前から思ってたんだけど」
 と、ニヤニヤ笑いながら妻のM子が言う。 「あなたは電動歯ブラシを使った後必ず、充電のところに置かないわよね」

 はて。僕は首をひねる。電動歯ブラシの置き方について考えたことなど今まで一度もなかったからだ。
「必ず、充電器の5センチ手前に立ててるの。あれはなぜ? 儀式? 私いつも充電器に置き直してるの」

 確かに。よく考えれば、充電器から歯ブラシをとった覚えはあるが、充電器に歯ブラシを置いた記憶がついぞない。

「独身の頃どうしてたの?」
 そういえば、と思い出せば、たまに歯ブラシが回転しないときがあり、「ああ、充電が切れたのか」と気づいて、止まった歯ブラシで無理やり磨くという電動歯ブラシにとって大変失礼なことをして、それからやっと充電器に戻す。それを延々と繰り返す、というのが僕の歯磨きの日常であったのだ。

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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東京の夫婦

松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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コメント

elba_isola |松尾スズキ @matsuosuzuki |東京の夫婦 食事時に左手を使わないで食べる食べ方はよろしくないと躾けられたなぁ。汁をこぼすなんて言語道断。我が家では怒られるわ。私もムッとなる。 https://t.co/XfgWfQ1Kzu 約1年前 replyretweetfavorite

akyska ”絶対皿の位置を変えずに遠くのナスを箸でつかんで、一気に口に運ぼうという無謀な賭けに出るの。そしてその賭けはいつも失敗して汁をこぼすの” 約1年前 replyretweetfavorite

pixiewired "孤独でなくなることで自分を知る。それも結婚の醍醐味なのかもしれない。" https://t.co/H17gPGOzwy https://t.co/jcBT43SWY2 #drip_app 約1年前 replyretweetfavorite