東京の夫婦

ラッスンゴレライって知ってる? [第六回]

「大人計画」を主宰し、作家、俳優として活躍する松尾スズキさん。2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾氏がその結婚生活を綴ったエッセイ「東京の夫婦」の連載がスタート。第六回は夫と妻の笑いの趣向について。イラストは近藤ようこさんです。


 何度も言うが妻のM子とは20歳年が離れている。加藤茶夫妻ほどでもないが、それなりの年齢差だ。

 普段はわりと普通に会話しているので気にならないが、ジェネレーションギャップというものを強烈に感じる瞬間も幾度となくある。なにしろ、彼女はポケベルを知らない。ダイヤル式電話を知らない。生まれたときには家にワープロがあった。一方、僕は20代後半まで原稿用紙にB2の鉛筆で戯曲やコラムを書いていた。その後、20年パソコンを使って50冊ほどの本を出して来たが、いまだにブラインドタッチができない。彼女は元銀行員で人事担当だったので、プロトコルとかデバイスとか異国情緒あふれる謎めいたパソコン用語を操る。これはえらい違いである。

 そんな彼女がある日、僕におもむろにという感じで聞いてきた。
「ラッスンゴレライって知ってる?」
 そう言って、M子はiPhoneのYouTube動画を僕に見せた。8・6秒バズーカーという芸人のネタだ。
 ♪ラッスンゴレライ、フー、ラッスンゴレライ、フー……。

 瞬時に見てはいけないものを見たような気がした。
 僕はお笑い好きなのでたいがいの芸人を許容する。小島よしおが出て来たときだって「すごいのが出て来た!」と、真っ先にコラムにとりあげた。

 だが、これはダメなやつだ。
 うまく説明はできないが、「関わり合いになりたくない」、そして「これに関わってはえらいことになる」という動物的直感が男子52歳の五感を貫き、脳が冷え固まって「ああ。こういう人たちが今うけてるんだね……」と言ったまま、そのやりとりをギクシャクと終わらせたのだった。

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松尾スズキが綴る、東京の夫婦の軌跡

東京の夫婦

松尾スズキ
マガジンハウス
2017-08-10

この連載について

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松尾スズキ

東京で家族を失った男に、東京でまた家族ができた。夫は、作家で演出家で俳優の51歳。妻は、31歳の箱入り娘。 ときどきシビアで、ときどきファンタジーで。 2014年に「普通自動車免許を持った一般の女性」と再婚した松尾スズキさんがその結婚...もっと読む

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